クリニックM&Aの基礎
医療機関M&Aにおける「診療内容」の確認点
Ⅰ.はじめに
買い手が、医療機関M&Aを検討する目的として、内装や機械などの設備の買収もありますが、もう一つの大きな目的として「患者さんの引き継ぎ」があります。
その為、医療機関M&Aをする際には、患者さんをスムーズに引き継げるかどうかが重要なポイントとなります。今回は、診療内容や売上の観点から、営業権の引き継ぎができるかを確認するポイントについて解説します。
Ⅱ.診療内容の確認点
1 診療単価
まずは、診療単価の確認をしましょう。
この際、買い手が今の勤務先などで診療している患者さんの単価と、売り手の患者さんの単価を比較してみるとわかりやすいです。チェックポイントの例は、以下の通りです。
(1)割合の多い疾患
疾患により、診療単価は変わる為、現在どのような疾患の患者さんが多いかを見ます。疾患の割合を確認した上で、単価に違和感がないかを確認しましょう。
(2)施設基準、加算
施設基準とは、保健医療機関が一定の人員、設備、体制などを満たすことで点数を得られる基準です。地方厚生局に届け出ることで、点数を算定できます。厚生労働大臣告示が定められており、細かい取扱いが通知で示されています。
施設基準の詳細は、厚生局の基本診療の届出一覧から確認できます。
施設基準においては、売り手がどのような施設基準を取得しているのか、どのような加算をしているのかの確認を行います。
さらに、専門的な資格が保有していることで取得した施設基準なのか、体制や診療の時間帯によって取得できる施設基準なのか等、継承後に売り手の施設基準を引き継げるかどうかを踏まえて確認しましょう。
また、単価が低い場合、本来取得すべき施設基準を取得していないことが想定されます。このような場合は、なぜ取得していないのかを売り手に確認する必要があります。
<出典>
・施設基準等届け出に関するよくあるご質問
・基本診療料の届け出一覧(令和6年度診療報酬改定)
(3)高度な処置の有無
売り手が実施しており、買い手に出来ない処置(内視鏡検査や、小手術など)を算定している場合件数などの確認が必要です。引き継いだ後、買い手が売り手と同様の処置が出来ない場合、単価が下がることもあれば、患者数の減少に繋がることもあります。
一方で、売り手が実施しておらず、買い手が実施可能な処置がある場合には、継承後の売上の上昇余地となります。
(4)検査などの頻度
慢性疾患などの患者さんなどに対しての、検査の項目や頻度を確認します。
買い手は、自分が希望する頻度や今後追加したい項目があれば、売り手の診療状況と比較して損がないかを確認する必要があります。
2 患者数
(1)1日患者数
売り手が1日に診ている患者数を、買い手が引き継げるかを確認します。
営業権が高い案件でも、買い手が売り手と同じ患者数を診ることが出来ない場合は、引き継ぐことは出来ないので留意しましょう。
(2)新患数、再診数
常に新しい患者さんが来院しているのか、再診が多いのかを、それぞれ数値で確認します。
特に、新患数が多い場合は、売り手の診療内容を買い手が引き継げなくても、新しい患者さんが常時来院されることになるので、大きな損失にはなりません。
一方で、再診数が多い場合は、売り手が長い年月をかけて集患したケースが多いです。その為、買い手が診察内容や疾患によって引き継げない患者さんがいる場合は同じ売上に到達するのに時間がかかることがあります。
3 処方日数(来院日数)
診療1回当たりの薬の処方日数について確認します。
長過ぎる場合は、査定に注意が必要なのと、引継ぎ期間を長く設定するなどの留意も必要です。また短い場合も留意が必要でして、例えば、生活習慣病で患者さんに14日処方をしていた場合、令和6年の診療報酬改定による生活習慣病管理料診療報酬の見直しの影響で、1カ月(28日)処方に変更する必要が出てくる可能性があります。
4 紹介先、紹介元
どの医療機関から紹介状を書かれて来院することが多く、どの医療機関に紹介状を書くことが多いのかを確認します。
例えば、売り手が懇意にしている先生から、患者さんを紹介してもらうことが多い場合、買い手が引き継いだ際に、紹介先・紹介元との関係を維持できるかが重要になります。
5 補助金、助成金
基本的に、補助金や助成金の「売上」として処理をしないことが多いです。(営業外収益とすることが多いです)しかし、例えばコロナなどの補助金や助成金が出て、たまたま売上処理をしたことで営業権が高くついた場合、翌年以降続く補助金で無ければ、営業権としての価値はありません。
このようなケースでは、患者数や単価を算出した際に、数値が合わないことがあります。その為、補助金・助成金についても、補足で確認することをお勧めします。
Ⅲ.終わりに
買い手がM&Aをする目的は、営業権を引き継ぐことです。実際に医療機関M&Aをお考えの際には、営業権をしっかり引き継げるかどうかを、今回解説した5項目で確認してみてはいかがでしょうか。
営業権の引継ぎをスムーズに行う為にも、医療機関M&A専門のコンサルタントなどの専門家に事前相談することは有効な手段です。
弊社でも、医療機関M&A専門のコンサルタントが最後まで一貫してサポートする体制が整っておりますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任