譲渡事例
承継後も非常勤医師として勤務し、患者さんやスタッフに安心してもらうことができた医療法人の承継事例
Ⅰ. まえがき
今回は、2024年1月に最終譲渡契約書を締結し、先日無事に譲渡を終えた、だてクリニックの伊達治行先生にインタビューをさせていただきました。伊達先生が大切にしてきたお考え、譲渡を検討したきっかけ、承継後の働き方などについてのインタビューです。これから承継を考えている先生方のご参考にしていただければ幸いです。
Ⅱ. 案件概要
案件概要 | |
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クリニック名 | 医療法人社団聖門会 だてクリニック |
クリニックHP | https://date-clinic.com/ |
譲渡者 | 伊達 治行 先生 |
所在地 | 〒333-0868 埼玉県川口市芝高木1丁目7ー8 |
診療科目 | 内科・腎臓内科 |
アクセス | 京浜東北線「蕨駅」より バス 東浦和行き(02)・新井宿行き(06) 「高木停留所」徒歩5分 詳細はこちら |
初回面談日 | 2023年5月 |
最終譲渡契約日 | 2024年1月 |
譲受者 | 本田 和也 先生 |
譲渡スキーム | 法人譲渡 |
担当コンサルタント | 竹野 貴弘 |
案件の特徴 | クリニック承継後も伊達先生は非常勤医師として継続勤務 |
Ⅲ. インタビュー
Q1:開業した理由と来院状況について
竹野:
本日はよろしくお願いいたします。最初に、当初、伊達先生が開業を決意されたきっかけから教えてください。
伊達先生:
もともと、医師になったときから開業をしようと決意しておりました。
竹野:
なるほど。開業当初の来院状況はどうでしたか?
伊達先生:
開業当初は、なかなか辛かったですね。借金の返済や従業員の給与、家賃、維持費などを支払うと3カ月~半年は自分自身の給与は本当に最低限の生活費のみ、という感じでした。
竹野:
最低限の給与という状態はどれくらい続いたのでしょうか。
伊達先生:
はい。「最低限の給与」の定義については個人差があると思いますが、私は丸3年間ほどは安定した給料が出ませんでしたね。
竹野:
その間は、開業時の銀行融資などで賄ったということでしょうか。
伊達先生:
はい。私の場合は、金融機関から融資を受けることができましたので、それを切り崩しながら何とか運営できておりました。
竹野:
そうだったのですね。そこから徐々に軌道に乗ったと思うのですが、開業後に経営する中で一番忙しかったのはいつ頃でしたか?
伊達先生:
一番忙しかったのは、開業してから11年~16年目ですね。その5年間は特に忙しく、その後の約10年間はほどほどに、という感じでした。
竹野:
忙しかった理由は何だったのでしょうか。
伊達先生:
忙しかった一番の理由は、訪問診療です。施設から訪問診療の依頼を受けていたので、その時期が一番忙しかったです。その後の10年間に関しても、外来が忙しかったので、軌道に乗ってからの合計15年間が忙しかったと記憶しています。
竹野:
忙しかった頃は、大変さややりがいは感じていましたか?
伊達先生:
正直、大変さを感じる方が多かったですね。訪問診療と外来診療を同時に行っていたのですが、常勤医としては私1人で診療をしていました。訪問診療は非常勤の医師にもお任せしていましたが、それでもその間は、自分の意識の中では「外来が手薄になってしまっているな」と思っていました。
Q2:伊達先生が大切にしてきた想い
竹野:
なるほど。伊達先生が1人で手が回らないときは、非常勤の先生を雇用して回していたということですね。では、今までどのようなことを大切にして経営をされていましたか?
伊達先生:
やはり、地域医療に貢献することですね。
竹野:
お話を聞いていく中で、伊達先生は依頼を断らずにすべて引き受けているなと感じました。それは意識して引き受けるようにされているのでしょうか。
伊達先生:
外来診療の方は、自分の診療の守備範囲内で見るようにしていました。また、数は少ないですが、「クリニックに通うのが難しい」という声もあり、地域住民の在宅医療の依頼も行っていました。
竹野:
すごいですね。伊達先生自身で地域住民の方に訪問診療を行うことをアナウンスされたのですか?
伊達先生:
はい。訪問診療に関しては、自分でアナウンスしていました。少ないながらに、地域の方からご依頼をいただいていました。
Q3:譲渡を検討したきっかけ
竹野:
次に、今回譲渡を検討したきっかけやお気持ちについて教えてください。譲渡は、いつ頃から検討し始めたのでしょうか。
伊達先生:
そうですね。大体2年前くらいに検討し始めました。理由は、自分の年齢とコロナの兼ね合い、あとは診療報酬改定のたびに、書類や書き物などさまざまな雑務が増えてきたことも、理由のひとつです。
2024年6月に診療報酬が改定されたので、結果的に今回の譲渡は良いタイミングでした。
竹野:
今回、譲渡を検討し始めた際、どなたかに相談はされましたか?
伊達先生:
いえ、M&A仲介会社さんに相談をしたのが最初です。
竹野:
仲介会社には先生ご自身で問い合わせたのでしょうか。
伊達先生:
はい、何かの雑誌に掲載されているのを見て相談しました。そこからいくつかの会社から話を聞きました。その際にシミュレーションをして、売上から各種経費を除いた金額などから、承継金額の大体の目安を出してもらいました。
竹野:
そうだったのですね。今回、弊社からも2名の先生を紹介させていただき、そのうちの1人であった本田先生に承継が決まったかと思いますが、その前にも他の先生と面談をされていたのでしょうか。
伊達先生:
いいえ。面談したのは、御社にご紹介いただいた2名の先生だけでした。
竹野:
なるほど。伊達先生のお知り合いやご親族からは、ご紹介の話などはありましたか?
伊達先生:
いえ、それもありませんでした。ただ同窓が開業して早めに承継していたので、そこから少し勉強することはありましたね。あとは各M&A仲介会社の担当さんに話を聞きました。その際、「業者によって手数料が変わるからよく考えてね」という情報はいただいていました。
竹野:
事前に手数料などの情報が入っていたのですね。たしかに、承継会社によって、手数料は幅がありますよね。
伊達先生:
そうですね。実は、G.C FACTORYさん以外にも2社のM&A会社さんに会っていました。ただ、規模の大きい会社はあまり良い印象はなく、支払額と承継額を算定してもらったのですが、「これなら閉院した方が良い」と思うような金額でした。
もう一社は、仲介費用や買い手の情報についてなかなか教えてくれず、こちらの情報だけを仕入れていくような印象でした。最後に仲介費用などを聞いて、それならば承継せずに続けた方が良いなと思う金額でした。
竹野:
そうだったのですね。今回、買収価格の提案や費用面が大きな違いだったのですね。
伊達先生:
そうですね。最初に仲介料などを明確に提示していたという点で、今回選定しました。
Q4:継承された本田先生について
竹野:
次に、今回継承された本田先生についてお聞かせください。最初の印象や継承する過程で気になることはありましたか?
伊達先生:
継承する過程で気になることは、特にはありませんでした。お若い先生で、短期間でいろいろと勉強されていて、実際に診療を見ても、患者さんに対して良く説明もされているので、本当、本田先生に承継していただいて良かったなと思っています。
あとは、私はもともと内科が専門ではないので、本田先生は内科の疾患に関しても患者様に細かく説明をしていますし、その点でも良かったなと感じています。
竹野:
ありがとうございます。では、次の承継の譲渡契約書の交渉の中で、大変だったことがあれば教えてください。
伊達先生:
本田先生とのやりとりの中では、大変だったことはありませんでした。買収監査の為の資料を用意するのは大変でしたね。会計士さんからの追加資料が多くあったので、「同じような資料を前にも提出していなかったかな?」など、混乱する部分はありました。
Q5:承継が決まってからスタッフへの対応について
竹野:
ありがとうございます。では、承継が決まってから従業員さんへの伝達はどのようにされたのでしょうか。
伊達先生:
承継する3カ月前くらいに、全体に向けて「承継することになった」と口頭で話しました。
竹野:
その際、従業員さんたちはどのような反応でしたか?
伊達先生:
うすうす感づいていたかは分からないですが、大きな反応はなかったですね。(笑)
その場で、「継続して勤務できるのか」「どのような勤務になるのか」という話もしましたが、特に話題にならなかったので、継続勤務を希望しているのかなと思いました。
竹野:
なるほど。全体に向けて話した後、一人一人と個人的に話すことはありましたか?
伊達先生:
特には話しませんでした。1人の看護師が退職しました。しかし、それは承継とは関係なく、以前から退職の話が出ていたので、今回タイミングが偶然重なったということですね。
Q6:承継後の働き方について
竹野:
今回、伊達先生は非常勤として残られることは希望されましたが、その理由についてお聞かせください。
伊達先生:
そうですね。承継後に何もしなくなってしまうのは、気力や体力的にも余り過ぎてしまうなと思ったからです。あとは、30年間くらい長く通ってくださっている患者さんもいるので、もう少し診ていきたいなと思いました。
竹野:
ありがとうございます。実際に非常勤として働いてみていかがですか?
伊達先生:
3カ月たちますが、時間を持て余し気味なときもあります。ただ、仕事量を増やしたいということはありません。(笑)
竹野:
なるほど。ちょうどよく働けているということですね。
伊達先生は、医療法人の理事長先生として経営面なども管理されていましたが、非常勤になったことで精神面も楽になりましたか?
伊達先生:
だいぶ楽になりました。私も楽ですし、妻も多少の雑務をしていました。ですが、年齢と共に徐々につらくなっていたのではないかと思います。なので、業務が減ったことで妻も楽になったと思います。
診療報酬や保険診療の点数、売り上げなどを考えなくて良くなったことも、気が楽になりました。
竹野:
確かに、考えることが減った分、気が楽になりますよね。
伊達先生:
あとは、職員さんの運営に関わる人員管理や人間関係を考えることもなくなったので、その部分でも楽になりましたね。
Q7:承継を振り返ってみての感想
竹野:
そうですよね。では、今回の承継を振り返ってみて、「もしも戻れるならば、やり直したい」と思う点などはありますか?
伊達先生:
承継に関してはありません。とてもスムーズに進んだと思います。
竹野:
確かに、伊達先生と本田先生が条件の譲り合いなど、柔軟かつ明確に対応していただけたので、スムーズに進んだ印象があります。
伊達先生:
ありがとうございます。
私自身は、どこを譲ったのか覚えていませんが・・(笑)
竹野:
雇用条件や医療機器の故障時の対応方法など柔軟に対応してくださいました。また、やらないことは「やらない」としっかりと事前に明言してくださったので、トラブルにならずに済んだのだと思います。あとは、大事なことしっかりと文字に起こしてご連絡くださったことも、スムーズに進んだ要因と思い、とても感謝しております。
伊達先生:
たしかに、「本来はこうしたい」と思っていても、「譲渡契約書に記載がない」となってしまうと、もめてしまいますよね。
あとは、承継後も非常勤として仕事をする上で「いてもらった方が良いかな」と思ってもらえる雰囲気で進めていきたいなと思っていました。そうすれば、例えば本田先生が急用で休むときにも、私がカバーできますよね。
竹野:
素晴らしいですね。承継してからも内視鏡の検査は伊達先生がされていると思いますが、内視鏡の患者数には変化はありましたか?
伊達先生:
内視鏡の検査は予約診療なので、あまり変わらないですね。勤務している患者さんは固定の曜日では来づらいということはありますが、そうでない患者さんはいつでも来てくれています。あとは、私が経営していた頃よりも、本田先生が一生懸命、予約を組んでくれているので、7月~8月は去年より多く検査できていると思います。
Q8:今後、承継を考えている先生に向けたメッセージ
竹野:
最後に、これから承継を考えている先生たちに向けて、伊達先生からアドバイスやメッセージがあればお願いします。
伊達先生:
そうですね。あまり話を膨らませないことが大切だと思います。資料を提出すれば、財務情報などは数値で分かってしまうので、現状のままで、正しく相手に伝わる方が良いんじゃないかと思います。
竹野:
おっしゃる通りですね。ありがとうございます。では、M&A会社を選定する基準もあれば教えてください。
伊達先生:
基準というよりは、なるべく早い段階で条件等は確認した方が良いと思います。私は事前に確認せずに話をして、資料を出してから条件や報酬の話になったのですが、やはり最初に聞いておけばよかったなと感じています。
竹野:
大変参考になりました。本日は貴重なお時間をありがとうございました。
Ⅳ. 終わりに(コンサルタントのコメント)
初回のご相談から最終譲渡契約書の締結までスムーズに進めることができ、承継後も伊達先生のご希望に沿った非常勤医師として継続勤務が可能となりました。これは伊達先生のお人柄や本田先生に寄り添ったお考えがあったからこそと感じております。
私としてもこのような承継に関われたことに感謝しております。
今後も承継後について最終譲渡契約書も締結前にしっかりと話し合い、お互い円満に承継ができるようこれからも日々尽力して参ります。
以上
担当コンサルタント
竹野 貴弘(たけの たかひろ)
株式会社G.C FACTORY コンサルティング事業部 コンサルタント
経歴:
リハビリテーション病院、調剤薬局会社、介護事業会社を経て、現在に至る。
現在はヘルスケア領域での経験を生かし、M&A、コンサルティング業務を行う。
資格
理学療法士
事業承継・M&Aエキスパート