譲渡事例
人と人との繋がりを大切に 28年間の診療所経営から次世代への継承
Ⅰ. まえがき
今回は、2024年3月に最終譲渡契約書を締結した、園田クリニックの元理事長である園田和彦先生にインタビューをさせていただきました。ご開業当初から園田先生が大切にしてきたお考え、譲渡を検討したきっかけ、診療の引継ぎなどについてのインタビューです。これから承継を考えている先生方のご参考にしていただければ幸いです。
Ⅱ. 案件概要
案件概要 | |
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クリニック名 | 園田クリニック |
クリニックHP | https://naruse-naika.com/ |
譲渡者 | 園田 和彦 先生 |
所在地 | 〒194-0045 東京都町田市南成瀬1丁目8-21 成瀬メディカルビル3階 |
診療科目 | 内科、循環器内科、呼吸器内科、外科 |
アクセス | JR横浜線成瀬駅より徒歩5分 詳細はこちら |
初回面談日 | 2023年5月 |
最終譲渡契約日 | 2024年3月 |
譲受者 | 金森 公平 先生 |
譲渡スキーム | 法人譲渡 |
担当コンサルタント | 高淵 信行 |
案件の特徴 | 標準的な法人譲渡スキームです。 |
Ⅲ. インタビュー
Q1:開業を決意されたきっかけに
高淵:
本日はよろしくお願いいたします。最初に、園田先生が当時、開業を決意されたきっかけから教えてください。
園田先生:
私はもともと心臓血管外科をしていました。心臓血管外科は、基本的に1人ではできず、手術をする際には最低3人のチームで行います。外科医が3~4名いて、専門の麻酔医も必要で、さらに人工心肺を回すテクニシャンも必要です。
当時、大学病院にいましたが、そのチームの一番上になるには助教授や教授しかなれません。そこに到達する難しさや期間などを考えて、大学病院を辞めて、開業を決意しました。
また、私と同じような気持ちを持ち、私よりも5年ほど前に開業された先輩が「このままでは飼い殺しになってしまうから、せっかくなら開業したらどうか」と薦めてくださったこともきっかけです。
高淵:
先輩からの後押しもあったのですね。開業されたのは、おいくつの頃だったのでしょうか。
園田先生:
45歳前後だったかと思います。
高淵:
現在の場所で開業された経緯を教えてください。
園田先生:
開業時に、先輩からの紹介で開業を支援してくれる方がいました。その方が場所選びからアドバイスしてくださり、それに乗っかっていました。
高淵:
開業されてから、患者さんの来院状況はいかがでしたか。
園田先生:
暇でしたね。1日5名程度という状況でした。来院が少なすぎたので、早めに閉めてスタッフ全員でお昼ご飯を食べに行って、「バトミントンでもして帰ろうか」なんて話をしていましたね。(笑)
高淵:
その状況はどれくらいの期間続いたのでしょうか。
園田先生:
開業して半年くらいですね。
高淵:
それ以降は、徐々に患者さんの来院数が増えていったということですね。
園田先生:
そうですね。バトミントンをしにいく暇はなかったですね。(笑)
Q2:開業されてから今までで大変だったこと
高淵:
なるほど。では、開業されてから一番大変だったことは何でしょうか。
園田先生:
私は医師しかしたことがないですが、開業すると「経営者」になってしまいます。人事やお金の管理、労務、総務など不慣れなことが多く、経営のことに関する業務はやはり大変でした。
高淵:
開業前に、そういった業務に関して学ぶ機会はありましたか。
園田先生:
いえ、全くやったことがありませんでした。あとは、大学病院にいたので保険診療点数のことが全然わかっていませんでした。「医学的には正しくても保険は通らない」ということに関して、どのように対応して良いかがわかりませんでした。
高淵:
そういった経営のことは、開業してから学ばれたということですね。
園田先生:
はい。開業してから学びました。
また、当時はパソコン自体がまだなく、世の中も少しずつインターネットが普及してきた、、というような時代なので、光回線なんて夢の話でした(笑)
そういう訳で、当時は全て紙で管理していたので、とても大変でしたね。そういう時に、患者数も増えてきたので、手が腱鞘炎でペンが持てないなんて時期もありました。
高淵:
そういった苦労があったのですね。
園田先生:
はい。金森先生は継承で、開業医としてのやり方など私がサポートできる点では、メリットも多いと思います。
高淵:
確かにそうですね。では、開業されてから今までいつが一番忙しかったでしょうか。
園田先生:
2020年ですね。患者数が多く、そこにコロナの検査やワクチン接種も重なり、クリニックの患者動線をどのようにすればよいのか苦慮しました。クリニックの構造上、診療を分けることができなかったので、全て1つのところで対応しなければいけませんでした。
結果として時間で区切って、物理的に分けられないので時間で区切って、ベランダにテントを張ってそこで診療するしかありませんでした。テントの中は、夏は40度を超えて、冬は0度という状況で冷暖房なしで防護服のみでの診療となりました。
あとは、ワクチン接種だけで1日200名程度対応していたので、すごく大変でしたね。
高淵:
ワクチンは看護師さんが対応していたのでしょうか。
園田先生:
はい。ただ元々看護師の数は少ないので、予約やワクチン接種でも苦労がありました。
高淵:
肉体的に大変な時期だったのですね。では、精神的に大変だったのはいつでしたか。
園田先生:
やはり開業当初ですね。ストレスは大きかったと思います。
高淵:
その時はどのように解決されていたのでしょうか。
園田先生:
先輩に話を聞いたり、医師会に行って教えてもらったりしていました。医師会では、医療のことよりも事業に関する疑問などを解決していました。
Q3:園田先生が大切にしてきた想い
高淵:
そういった大変な時期を乗り越えてくる中で、園田先生がクリニックを経営する上で大切にしてきたことは何でしょうか。
園田先生:なかなか難しい質問ですが、一番は「良い医療を届ける」ということですね。あとは、「人と人との繋がり」を大切にしていました。
高淵:
人と人との繋がりという部分で、具体的なエピソードがあれば教えてください。
園田先生:
30年近くやってきて、今となっては皆さんご高齢になっていますが、開業当初からずっと来院してくださっていました。
引っ越しなどやむを得ない理由以外で、途中で来院しなくなった方はほとんどいないと思います。あとは癌になってしまって、他の病院に行くことになった方もいましたが、最終的にはうちに戻ってきてくれた方もいました。
高淵:
そのような思い出や想いの詰まったクリニックを、継承しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
園田先生:
少し疲れたなと感じ始めて、70歳を超えたので「この先、自分に何か起きてもおかしくない年齢になってしまったな」と思いました。このまま続けて、急に「明日辞めます」という状況になってしまうと、1000人以上の患者さんに迷惑をかけてしまいます。
その患者さんたちを次に繋いでいきたいと思って、継承を決意しました。
高淵:
継承はいつまでにできると良いなどは考えていましたか。
園田先生:
特になにも考えておらず、なるべく早めにできればと思っていました。やはり年齢的にもいつ何が起きてもおかしくないので、それを考えるとどこかのタイミングでお渡ししないと、と思っていました。
高淵:
なるほど。継承を考えた際に、お知り合いや先輩後輩に継承する選択肢はありましたか。
園田先生:
考えはしました。大学の後輩にも声もかけましたがあまり芳しい返事ではなかったですね。
高淵:
なるほど。では、その後はどこに相談されましたか。
園田先生:
その後は、継承の仲介業者をいくつか当たりました。ただ、あまりしっくりくることはありませんでしたね。
高淵:
そうだったのですね。今回、弊社は会計事務所様を介してご紹介いただきましたが、その前からそういった会社との接点はあったのですね。
園田先生:
はい、と言いましても、事務のスタッフに概略だけ尋ねてもらって、報告を受けるとか、それくらいですね。
Q4:継承された金森先生について
高淵:
今回弊社からは継承された金森先生を含めて3名の方と面談をしていただきました。その中で、金森先生を選ばれた理由は何だったのでしょうか。
園田先生:
ご紹介いただいた中で個人医師が金森先生で、他は医療法人でした。開業に関してのお考えなどを皆様にお聞きして判断しました。
高淵:
そうだったのですね。園田先生の中でも継承するならば個人の先生にお任せしたいという思いが強かったのですね。
園田先生:
はい、私は「人と人との繋がり」と大切にしていますので、そういった意味だと個人でこれから開業する先生の方が良いなと思っていました。
高淵:
結果として、金森先生にお任せすることになったわけですが、実際にM&Aの交渉は大変でしたか。
園田先生:
手続き的な面などが大変でしたね。
高淵:
そうですよね。継承をされる先生の中には、精神的に大変だと感じられる先生も多いのですが、園田先生はいかがでしたか。
園田先生:
それはなかったですね。それよりも、M&Aの交渉は最終契約をするまではスケジュールが明確にはわからなかったので「いつまで診療を続ければ良いのか」という心配はありました。
高淵:
確かに、基本合意をしてからも時間がかかってしまいましたね。
園田先生:
「年内に終わるのかな」という心配がありましたね。
やはり、なかなか計画通りにはいきませんよね。
高淵:
そういった部分も振り返ってみて、M&Aの交渉は思ったより大変でしたか。
園田先生:
そうですね。オンラインショップみたいに「これ買います」、「はいどうぞ」という風にはいかないですね(笑)
高淵:
そうですね。M&Aでは、これまで思いを込めてきたクリニックに対して、譲渡対価算定で評価を受けたり、値下げ交渉が入ったりして、少し心が傷つくという先生もいらっしゃいますがいかがでしたか。
園田先生:
はい、算定では自分で思っていたよりは安いなという感覚は、私もあったとは思います。
Q5:承継が決まってからスタッフへの対応について
高淵:
承継が決まってから従業員さんへの伝達はどのようにされたのでしょうか。
園田先生:
承継の決定後、ある程度、自分の気持ちが決まった時点で全員集合してもらい、伝達しました。「いい歳になったから、近々やめるね」という感じで割と簡単に伝えました。スタッフは「私の仕事はどうなるのか」と心配すると思うので、それに関して、次の先生と相談していただくこともお伝えしました。
ただ、スタッフもこれまで辞めずに28年間一緒にやってきたので「私も先生と一緒にリタイアしようかな」なんて話もでましたね。
高淵:
なるほど。辞めることをスタッフの方に伝えた際の反応について、もう少し詳しく教えていただけますか。
園田先生:
反応としては、最初はやはり「え~!!」という感じでしたね。でも正直に私の気持ちをお伝えしました。スタッフの今後についても、今回は事業承継のため継続勤務について「保証することはできません」ということも敢えてお伝えしましたが、結果として理解してくれましたね。今はほとんどのスタッフが継続勤務しています。
Q6:承継の引継ぎについて
高淵:
金森先生への診療の引継ぎは園田先生から見てスムーズに進みましたか。
園田先生:
患者さんによってそれぞれだったと思います。「死ぬまで診てほしかったし、看取ってほしかった」と言われる方もいましたし、あっさりと「別のところに行くね」という方もいました。
そういう意味では、週に何回かだけでも診療を続けるのも良かったとも思っています。
高淵:
継承をされた今、先生が振り返ってみて思う、理想的な引継ぎの仕方や期間はありますか。
園田先生:
理想を言えば2カ月は必要だなと思いました。結局、慢性疾患で通院する間隔が月1回なので、あまり短いと、うまく日付が合わないこともあるので、結局会わずに終わってしまうこともあります。なので、2カ月以上は期間をとって、新しい先生と分担しながら診療して引き継ぐのがより良かったのではと思っています。
高淵:
なるほど。慢性疾患で通院される患者を引継ぐには余裕をもった引継ぎ期間をつくることが重要なのですね。
Q7:承継を振り返ってみての感想
高淵:
今回の承継を振り返ってみて「これから承継される方にとって、ここは重要だな」とお伝えすることはありますか。
園田先生:
そうですね。やはり物事を進める際には、時間をかけてじっくり取り組むことが大切だと感じました。今回は候補者選びが良い形で進みましたが、より多くの候補者とお会いすることで、検討の幅も広がり、じっくりと検討する時間を確保できますし、診療の引き継ぎも丁寧に進めることができると思います。
その為には、引退する日を決めて、逆算して、なるべく早めにM&A会社に相談すのが、良いと思いました。ただ、リタイアを決断するのも難しいですし、診療科にもよりますし、なかなかうまくはいきませんよね。
Q8:承継を終えての感想
高淵:
最後に、継承を終えて、今のお気持ちを教えてください。
園田先生:
振り返ってみると、勤務医だった時もそうですが、開業してからも、常に多くの患者さんを肩に背負っています。診療時間が終わったからといって、常に考えていますので、終わっていないのです。そういった意味では、継承して、完全にリタイアをしたことで初めて肩の荷が降りたという感覚があります。
高淵:
大変参考になりました。本日は貴重なお時間をありがとうございました。
Ⅳ. 終わりに(コンサルタントのコメント)
今回はトップ面談後から譲渡契約書の締結に至るまで、時間をかけて丁寧に進めさせていただきました。
途中からは弊社が資金調達のサポートもさせていただき、譲渡のご相談からクロージングに至るまで、全体を通して関わらせていただきました。
承継後、現在では1日あたり70~80人の患者様が来院されていると伺い、今回の承継に携わることができたことを大変嬉しく思っております。
以上
園田 和彦 先生
≪ご略歴≫
1979年北里大学医学部卒
同年北里大学医学部胸部外科入局、以後、聖隷浜松病院心臓外科、榊原記念病院心臓外科、ニューヨーク州立大学外科などに 勤務。
1996年 園田クリニック開設
2006年 医療法人社団園田クリニック開設
担当コンサルタント
髙淵 信行(たかぶち のぶゆき)
株式会社G.C FACTORY コンサルティング事業部 課長
経歴:
国内医療機器メーカー、医師紹介会社、医療系コンサルティング会社、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部設立メンバーを経て、(株)G.C FACTORY 創業第一期メンバーに至る。医療系M&A・新規開業支援業務では、50件以上の成約実績がある。現在、コンサルティング事業部の大黒柱として内外問わず信頼は厚く相談多数。ライフワークはサーフィンと育児。
資格:M&Aシニアエキスパート(事業承継・ M&A エキスパート協会/運営:日本M&Aセンター)