クリニックM&Aの基礎
医療業界のM&A最新動向!目的やメリット、流れを具体的に解説
Ⅰ.はじめに
医療業界のM&Aには、株式会社とは異なる特殊性があります。医療機関を取り巻く環境や医療業界ならではのM&Aの特徴を踏まえ、M&Aを成功させましょう。M&Aの目的やメリット、M&Aの基本的な流れも解説しますので、ぜひ参考にしてください。
Ⅱ.新型コロナウイルス、2025年問題 ― 医療機関を取り巻く状況 -
近年、医療業界においても、M&Aが増加しています。その理由を知るため、まず、昨今の医療機関を取り巻く状況についてお伝えします。
<新型コロナウイルスは病院にも打撃を与えた>
昨今の新型コロナウイルスの影響で、観光業や宿泊業は大きな打撃を受けました。そして、医療業界にも打撃があったことがわかっています。独立行政法人福祉医療機構の「病院経営動向調査・社会福祉法人経営動向調査(2020年6月調査)における経営動向および新型コロナウィルス感染症の影響等について」によると、緊急事態宣言が発令された4月と5月(見込)の一般病院の医業収益には次のような影響が見られました。
4月:3割減以上15.8% 2割減27.3% 1割減31.1% 横ばい19.1% 増加6.6%
5月(見込):3割減以上24.0% 2割減30.1% 1割減30.1% 横ばい14.2% 増加1.6%
出典:(独)福祉医療機構 ResearchReport 2020 年7月(図表 5)一般病院の医業収益の状況(前年同月比)
4月では74.3%が減収となり、そのうち3割以上減収となった病院は15.8%でした。病院経営における課題として、医療機関からは「受診控え等により外来患者数が低下」「受入制限はしていないが、家庭や外来からの入院が減少」といった回答が寄せられました。新型コロナウイルスによって医療関係者は大きな負担を強いられるとともに、経営上の課題にも直面しているのです。また、このような傾向は病院の統計データだけに関わらず、弊社が顧問をしている診療所においても見られています。
<2025年問題、地域ニーズに合った医療の必要性>
2025年には第一次ベビーブームで生まれた“団塊の世代”が75歳以上の後期高齢者になります。厚生労働省の試算によると、2025年には65歳以上が30.3%(約3,657万人)、75歳以上が18.1%(約2,179万人)になるともいわれています。そのため、医療・介護ニーズが急増し、医療費がますます増加すると予想されています。このような問題を、一般に「2025年問題」と呼びます。人口構成が変化することで、より地域ニーズに合った医療の提供が求められるようになるでしょう。国は今後の医療の在り方を、診療報酬改定を通じて示しています。
しかし、経営状況によっては、国が求める方向性に必ずしも添えるとは限りません。在宅医療をはじめとした幅広い医療の提供について、対応したくとも難しいケースも多々あります。医師、看護師など医療従事者不足も深刻です。地方では、人材確保ができず十分な医療を提供できないなど、問題が山積みです。このような状況下と近年、「M&A」が認知されてきていることも重なり、選択肢として検討する医療機関が増えています。
Ⅲ.売り手・買い手のM&Aの目的とメリット
医療機関を取り巻く経営環境は、近年いっそう厳しさを増しています。一方で、システム導入等によって業務効率化を図り、経営の健全化に成功している医療機関もあります。このような中で、双方の目的のため、M&Aを選択する医療機関が増えてきています。続いては、売り手・買い手それぞれのM&Aの目的とメリットを解説します。
<売り手のM&Aの目的とメリット>
売り手のM&Aの目的の多くを占めるのが、後継者の不在です。一昔前までと違い、開業後必ず収益が安定するとは言い難くなってきています。そのため、子どもが医師であっても、事業承継を希望しないというケースも少なくありません。M&Aを選択すれば、このような後継者の不在という問題を解決できます。病院・クリニックが存続すれば、患者さんやスタッフを守ることができます。また、経営不振からM&Aを選択するケースもあります。医療業界の人材不足は、特に地方では深刻な問題です。医師不足、看護師不足で十分な医療の提供が困難になることも少なくありません。また、診療報酬の引き下げや新型コロナウイルスによる減収から、経営不振に陥るケースもあります。施設の老朽化による、修繕費や設備投資の負担が重荷になることもあります。
M&Aを選択すれば、経営の効率化を図り、医療機関を継続できる可能性があります。病院・クリニックが存続すれば、患者さんやスタッフを守ることができ、場合によっては自身も医師として勤務を続けられます。
<買い手のM&Aの目的とメリット>
買い手にとってのM&Aは、事業拡大のための「時間」を買うとも表現されます。分院展開をしたい時や新しい地域に進出したい時など、ゼロから立ち上げるとなると、診療圏調査、事業計画の作成、医師や看護師の採用など、多くのステップが必要となります。弊社の新規開業支援においても、物件決定から順調に進んでも5か月ほどはかかっています。また、地域に認知され、十分な患者数を獲得するまでに数年の時間を要することも少なくありません。既存の医療機関をM&Aによって取得すれば、事業立ち上げにかかる時間を大幅に短縮できます。また、患者数などある程度目処を立てることができ、ゼロから立ち上げるよりリスクを抑えて事業を拡大できます。
病院の場合、地域ごとに許可されている病床数に制限があります。新しい地域に進出しようとしても、病床数の関係で病院の開設が叶わないこともあります。しかし、M&Aであれば、病床数の問題をクリアして新しい地域へと進出できます。これは買い手にとってメリットといえるでしょう。その他、既存の病院の建物や医療機器等を引き継げるのもM&Aのメリットです。
Ⅳ.医療業界のM&Aの流れと特殊性
M&Aは、売り手・買い手の双方にメリットをもたらすことから、多くのM&Aが実行に移されています。続いては、医療業界のM&Aの基本的な流れと医療業界ならではの特殊性について解説します。
<医療業界のM&Aの基本的な流れ>
M&Aでは、税務・法務・労務など多くの専門的な知識が必要とされます。特に医療機関の譲渡では医療法や療養担当規則などの各種法律や、行政手続きなど、医療機関独特な論点も多く、M&A後にトラブルが発生してしまうことになりかねません。そのため、医療機関専門のM&A仲介会社に仲介業務を一任することが一般的です。M&Aは、基本的に次のような流れで進みます。
1.M&A仲介会社に相談、仲介契約を締結
2.ノンネーム(医院が特定されるような具体的な情報は記載しない)で売り手・買い手候補先探し
3.条件が合えばネームクリア(情報開示)し、医院情報を交換
4.トップ面談
5.条件が合えば基本合意書締結
6.買収監査(デューデリジェンス)
7.最終譲渡契約書締結
8.クロージング
M&Aにかかる時間は、状況によりけりです。たとえば、売り手側院長の健康上の問題がM&Aのきっかけである場合などは、短期間でクロージングまで進めることもあります。一般的には、数ヵ月から1年ほどの期間でM&Aを実行します。規模が大きい場合などは、協議なども含めて、数年を要することもあります。
<医療業界ならではの特殊性>
医療法人には出資持分という概念があり、「出資持分あり」の医療法人と「出資持分なし」の医療法人があります。現状は、まだ多くが「出資持分あり」の医療法人です。よって、M&Aにおいては、事業譲渡も選択可能ですが、「出資持分譲渡」が行われることも少なくありません。なお、「出資持分なし」の医療法人では、異なるスキームが用いられます。
個人病院の場合、出資持分はないため、個別の資産ごとに売買契約を結ぶことでM&Aを実行します。スキームは事業譲渡です。買い手は許認可においても引き継ぐことはできませんので、許認可の取得も含めて無理のないスケジュールを立て、進めていく必要があります。なお、個人病院のスキームは、事業譲渡以外の選択はできません。
医療機関のM&Aでは、一般の株式会社とは異なる特殊性があります。医療法に関する知識や行政手続きも必要です。そのため、医療機関のM&Aの実績がない仲介会社では対応しきれないこともあります。M&A仲介会社を選ぶ際には、医療機関のM&Aについて実績があるかどうかを必ず確認しましょう。
弊社G.C FACTORYでは、多数の医療機関のM&Aを支援した実績があります。M&Aのご相談は無料で承っておりますので、気になる点はお気軽にご相談ください。医療業界のM&Aに精通した専門家が、最新のM&A動向やM&A事例をお伝えしながら、親身に対応させていただきます。
執筆者:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任