新規開業事例
一番配慮すべきは「人」に関すること。勤務先近くで開業し、患者様もスタッフも大切にするクリニック
クリニック概要 | |
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院長名 | 長田 潤(おさだ うるう) 先生 |
クリニック名 | うるうクリニック港南台 |
クリニックHP | https://uruclinic.com/ |
コンセプト | 地域の方々に潤いある日々を 提供していく |
所在地 | 〒234-0054 神奈川県横浜市港南台3丁目3−1 港南台214ビル B1F |
アクセス | JR【港南台駅】から徒歩3分 |
診療科目 | 内科・甲状腺内科・糖尿病内科 |
開業日 | 2019年7月 |
まえがき
横浜市港南台にある、うるうクリニック港南台の長田潤院長に開業に関してのインタビューを行いました。開業の経緯、開業準備のエピソード、現在のクリニック作りのこだわりや運営で大事にしていること、そして、これから挑戦していきたいことなど、様々なお話を伺いました。院長の想いがつまったとても素敵なクリニックの取組事例ですので、これから開業を検討されている先生にぜひ参考にしていただきたいと思います。
開業について
Q:本日はよろしくお願いします。まず港南台駅で開業された理由を教えてください。
長田先生:
港南台駅は、私が医局派遣先として配属された済生会横浜市南部病院(以下、南部病院)がある駅です。その近くで開業をして、開業後も連携をして患者さんをフォローしていきたかったため、開業地として選びました。
Q:開業をお考えになったのは南部病院に勤務された時だったのでしょうか?
長田先生:
いえ、南部病院で勤務をする前から開業は考えていました。開業をするならば患者さんの為にも信頼できる病院と連携する形をとりたかったので、県内の病院でまずは部長などを経験し、後進を育て、その病院の門前で元々の仲間達と一緒に地域医療を支えるクリニックを開業することを希望していました。南部病院に行ったのは、大学時代からとても尊敬している教授に自分の考えや希望を打ち明けた際に、紹介をしていただいたことがきっかけです。
Q:開業するために非常に熟慮されたと思いますが、教授への説明はハードルが高かったのではないでしょうか。
長田先生:
いえ、教授への説明はしやすかったです。
教授は、世のため人のために貢献していくのに、医局で培ったものを他の人に伝承していく、辞めずに続けていくことを大事にされていて、同じ領域であればどのような続け方でも大きな違いはないという考えを持つ先生だったため、開業も相談がしやすかったです。本当に上司に恵まれたと思っています。
Q:開業を決意されてから実際に開業に至るまでどのくらいかかりましたか?
長田先生:
決意されてから5年かかりました。当初は2年位と考えていましたが、病院の為に職務を全うすることを考えて、「もう1年」を繰り返していった感じです。
Q:2019年夏に開業されましたが、物件が決まってから開業準備はスムーズだったのでしょうか。
長田先生:
物件は2018年の夏には決めていましたが、それから1年かかってしまいました。
内装工事業者の相見積もりを先延ばしにしてしまったのが原因です。相談していた業者一社から初回見積もりの報告を受けたのが、着工予定日の10日前で、そこではっと我に返りました。当時、相談していたコンサルタントもいましたが、私自身が全てのことに関して主導権を取る体制を作り直す必要があると判断し、熟慮の末、コンサルタントとの契約を終了し、改めて自分で情報を集め、内装業者数社に相見積もりを打診しました。その結果、開業時期を3ヶ月延期することになりましたが、その代わり何でも外部に任せきりにするのではなく、院長である私自らがしっかりと進捗や状況を把握することの大切さを学びました。
Q:弊社の金子に開業のご相談をされたきっかけを教えていただけますか。
長田先生:
はい。一度はまったく一人になってしまった私ではありますが、とはいえ自分だけで開業できる自信は無く、知見や経験のある人に相談することにしました。その人が金子隆一さん(現 株式会社G.C FACTORY 代表取締役)です。信頼する友人(医師)が2017年末ごろに金子さんを紹介してくれました。そして、先程の建築のトラブルの際に金子さんに連絡をすると「すぐに行きます」と次の日には港南台に来てくれました。
常に私と緊密にコミュニケーションをとりながら現状の問題点を整理し、二人三脚で準備のやり直しを支援してくださったので、自分自身心から納得できるクリニックができたと思っています。本当にありがたかったです。
診察室が多く、広々としたカフェのような温かみのある空間の為、リラックスして来院できそうです♪
Q:開業にあたって、長田先生がこだわったことや、絶対に譲れないとお考えになられた部分はありましたか?
長田先生:
開業時は予診室を多くすることにこだわっていました。最初は、仲間を集めて糖尿病や内分泌の専門医のたくさんいるクリニックをつくろうと考えていました。
ドクターの体制は、常に3人を稼働して、患者さんが1日に200人以上受診できるクリニックにすることを考える一方、医師の負荷を和らげるために、予診室を多く作るという計画でした。その前提で計算をすると60坪以上の敷地面積がクリニックに必要だと考えていました。
現在、問診は全てWeb上で患者さん自身に事前に記載していただく形をとっており、それによって予診の手間が省けて、医師はすぐに診察でき、1診・2診体制をとることができています。そのためクリニックが広々としていることは患者さんにもご好評いただいているので良かったとは思っていますが、予診室に関しては、持て余していますので、さらなる有効活用の方法を検討しています。
相談室のうち一部屋は現在美容外来の治療室として活用されています。
Q:今のクリニックの方針や体制を教えてください。
長田先生:
患者さんご自身ができることは、最大限ご自身で行っていただく体制づくりを心掛けています。私たちはノウハウを作って患者さんにお伝えし、難しいと感じていらっしゃる方にもしっかりサポートしてご理解いただき、自助の精神を育むことを大切にしています。予約も問診もご自身のスマートフォンなどを利用してWeb入力していただきます。最初はマンツーマンで支援し、段々と慣れていただければ患者さんご自身でできるようになることを目指してサポートしています。その結果として当初のこだわりであった予診室が要らなくなりましたね。
弊社社員にスマホでの問診を教えてくださる長田先生。LINEに似て馴染みのあるシステムなので患者さんも操作がしやすいと思いました。
患者さんの予約・問診内容はすぐにパソコンで確認することができます。
Q:予約をWebにすることに抵抗される患者さんもいらっしゃったと思いますが全員ができるようになったのでしょうか。
長田先生:
はい、多くの方ができるようになりました。最初は抵抗感のあった患者さんでも丁寧に手取り足取り説明すると、「意外とできる」と言って、今はむしろ進んで使ってくださいます。また上手く予約できない方向けに代行入力や紙での記載についても対応しています。 例えば、ワクチンの予診票は、最終的にはWebでなくてもよい体制をとっています。ハイブリッドにしておきながら、できるだけ患者さんがWebを使えるように全員に1回は挑戦していただくことは大事だと思っています。
Q:クリニック作りや運営のために、工夫していることを教えてください。
長田先生:
周りのクリニックの良いところを取り入れ試行錯誤を繰り返しています。例えば、友人のクリニックでは電話を設置しておらず、これは電話対応の負荷を減らす究極の方法だと思い、当院でも対策を行うことにしました。当院では自動応答システムとLINEのチャットを組み合わせて導入しております。これにより、電話は設置していますが、入電は1/3ほどに減らすことができました。患者さんからのLINE経由のお問い合わせはスタッフ全員でリアルタイムにも事後的にも共有できるため、スタッフの教育効果も得ることができます。
周りを見ると参考になるロールモデルがたくさんあります。周りを見ず、情報収集しないで院内だけで最適化しようとすると、部分最適化になってしまい、それ自体が間違っていることに気づけなくなると思います。
外を見て面白そうな取り組みをしていれば、取り入れ、調整をして違う形で同じ目標を達成できるようにしていこうと思っています。
最近の取り組みでは自動精算機を導入しました!
Q:長田先生のご専門は糖尿病と甲状腺ですが、どのくらいの人数をみられているのでしょうか。
長田先生:
現在保険診療で月に800人ほどの患者さんをみています。この中の8~9割が専門外来で、1~2割が風邪気味や急性疾患です。
Q:多くの患者さんにご来院いただくうえで、地縁のある場所で開業することは重要と思いますか。
長田先生:
開業にあたって、私は知らない土地で一から開業することに不安があり、勤務していた病院の近くで開業し、病院からも患者さんをご紹介いただきました。ただ、今の患者さんのほとんどは開業後に当院に直接来られた患者さんであることを考えると、連携病院で以前部長であったエピソードは患者さんにとってあまり重要ではなかったと思っています。今後は、好きな場所で開業しても良いと思うようになりました。私の友人は開業医が多いのですが、勤務医時代の地域と関係ない土地で開業して成功しています。
Q:患者さんを診療するうえで心がけていることを教えてください。
長田先生:
特に2つあります。
一つ目は何より診療のコアな部分の見逃しがないようにガイドラインを理解した上で医学的に妥当性の高い診療を提案していくこと、二つ目はそれに加えて「ご家族はお元気ですか」といったご家族のことなど患者さんと何気ない会話を一言二言することを心がけています。クリニックでなくてもできる話を意図的に行うのは、緊張感を和らげて少しでも安心していただきたいと思っているからです。このような会話をする時間を捻出するために、問診は事前にしてもらうなど、あらゆるところで効率化のための工夫をしています。電子カルテのメーカーとも毎日のように機能やオプションについて相談しています。
院長は受付で直接患者さんと会話をすることもあります。
Q:ここまでクリニック作りの運営や診療について様々な取り組みを伺ってきましたが、今後挑戦したいことについてお聞かせいただけますか。
長田先生:
たくさんありますが、まずは分院の立ち上げです。分院では私の目が行き届きにくくなると思うので、クリニックの指令系統をしっかりさせていくための業務マニュアルを作っています。新しいオペレーションを始める時は必ずトップダウンで行い、スムーズに開始するための準備を日々進めています。何が新しくて何が既存のオペレーションかを可視化して判断するためにマニュアルをしっかりと作り、新しいオペレーションはスタッフ全員で共有しています。それが遠回りのようにみえて一番早いと思っています。
Q:新しいオペレーションを導入するために院内で工夫されている取組はありますか。
長田先生:
私は新規オペレーションを作る際に、スタッフ個々が判断して現場最適化すれば良いとは思っていません。課題を見つけることはもちろん現場でも行いますが、それぞれで問題の対応をしてしまうと一気通貫した大局的なオペレーションを作ることはできません。何か課題を感じた時に自分が考えた対策やオペレーションを開始してしまうのではなく、まずは課題を報告するように伝えています。報告を受けて、課題の分解整理の仕方を訓練することから始めます。また、課題の分解整理がしっかりできたスタッフに対しては、更に、現状に合わせたプロセスを見せて、大局的な視野を養うようにしています。
しっかりと報告することが大事なのですね!
長田先生:
はい、スタッフ一人ひとりの能力を引き出すことと同時に院長の知らないところで物事が始まること、組織のまとまりが崩れることが起きないためにもコミュニケーションを取るということを日々意識して行っています。「箱だけ作ってあとは上手くやってください」、となってしまうと、スタッフの中には「放っておかれている」「成長しているのだろうか」と疑問に感じ、幸せに働くという気持ちにはなれない人もいると思います。私のクリニックでは、そうならないためにルールをきちんと作っています。
Q:多くのスタッフと共有するために工夫していることはありますか。
長田先生:
私が決定判断をしたオペレーションに関しては、すぐに現場のスタッフに口頭で通知をします。その上で、slack(ビジネス用のコミュニケーションアプリ)にも掲載して、非番のスタッフも把握できるようにしています。全体通知のslack下書きやマニュアルはスタッフに書いてもらい、私が確認・添削後にアップするということを毎日診療の合間に行っています。私はこのようにチーム内に情報共有する作業を特に重視しており、スタッフが業務上のスキルとして身につけられるように常に訓練しています。相手がわかりやすいように情報伝達するというのは実はかなりスキルが伴う作業です。特に会話でのコミュニケーションは特に高度であって、その前にslackなど、文章でのコミュニケーションが基本と思っています。当院では、とにかく文章で情報共有する練習を繰り返し行う中で、全員が少しずつ成長してきていることが分かります。
Q:開業支援のサービスについて、こういうサポートがもっとあれば良かった、開業をサポートする人に対してこういう部分で付加価値を出してほしいといったご意見はありますか?
長田先生:
社労士の先生がチームにいてくださると良いなと思っています。私は、G.C FACTORYの金子さんのご紹介で、G.C FACTORYの会計チームと社労士の先生の3者で連携をしています。
マネーフォワード(会計・経理・労務などバックオフィスに関するクラウド型のデータ管理システム)という1つの基幹システムを共有しており、私が課題を投げかけると、どちらかが解決してくれて、解決のプロセスもすべて見える形です。長年目指していたことが実現できています。このような形で会計税務と労務が解決されていく仕組みが一番良いと私は思っていますが、それが可能な社労士事務所はそう多くはないと思います。多くのクリニックは、税務面は税理士、労務面は社労士で、それぞれに契約している院長先生が非常に多く、そうなると問題を投げる際に院長が常に中心にいなければならない状態にあります。院長は誰がどう解決していいか分からず困っているので、院長・税理士・社労士というトライアングルを均等に配置される、人的なオペレーションに関わるサポート体制があるとより良いのではないかと思います。
Q:先輩開業医として、これから開業を検討されている先生へメッセージをお願いします。
長田先生:
一番配慮すべきことは、「人」に関することだと思います。
そのために従業員、開業医の仲間、医局の仲間・先輩・後輩など周囲の人を大事にしていただきたいと思います。先に同じような壁にあたり、経験してきた先生に話を聞くと、ノウハウが蓄積されていて、良いアドバイスをもらえます。自分が辛いときに話を聞いてもらい、共感を得られたときには、自分だけでなく周りも同じだと思うと、もう少しだけやってみようと踏ん張れると思います。内だけ見て解決しようとするのではなく、苦しい時ほど顔を上げて、周りを見たり、ほかの開業医の先生と連絡を取ったりと、そういうコミュニティを作っていっていただくとよいと思います。
以上
長田 潤(おさだ うるう)
医師
医療法人社団メレガリ理事長
うるうクリニック港南台院長
歯科医師の父と医師志望だった兄の影響で医師を志す。新潟大学卒業後、京都、横浜、沖縄にて臨床その他研鑽を積み、糖尿病専門医・研修指導医や日本内科学会認定内科医の資格を取得。2014年より横浜市南部病院での勤務を経て2019年7月にうるうクリニック港南台開業。趣味はヴァイオリンを弾くこと。