クリニックM&Aの基礎
医療機関M&A 医療機器の継承に伴う留意点
Ⅰ.はじめに
医療機関M&Aにおいて、事業譲渡・法人譲渡を問わず、医療機器の継承を伴うケースは多くあります。
今回は、医療機器の継承をする際の留意点について解説します。
Ⅱ.各医療機器の留意点について
まず、各医療機器別に留意点を解説します。
1 レントゲン機器(備え付け届、線量測定、フィルムバッジ)
X線やCTなどのレントゲン機器を継承する場合には、保健所に対して手続きをする必要があります。買い手は保健所にX線の備付届を提出し、売り手はX線の廃止届を提出します。
備付届を提出する際は、放射線が漏洩してないかを測定する「線量測定」や、X線などの被ばく線量を測定する「フィルムバッジ(ルミネスバッジ)」の検査などが必要です。
<診療用X線装置備付届に添付する漏洩線量測定結果>
測定年月日、測定器の名称、測定者、測定条件、ファントム、漏えいの有無/
参考:東京都保健医療局 診療用エックス線装置備付届(第22号様式)
備付届や線量測定に関しては、事業譲渡をして、個人で新たに開業する場合にのみ必要な手続きです。法人譲渡の場合は、提出する必要がありません。
また、売り手が使用しているレントゲンが、フィルムを使用するタイプの場合など、古い機械の場合は、現像室などのスペースの問題もありますので、継承するかどうかを検討することをおすすめします。レントゲンを継承しない場合は、機械の処分代の負担について売り手と相談する必要があります。
2 エコー、内視鏡等(プローブやスコープの追加コスト)
エコーのプローブや、内視鏡のスコープを追加する場合、売り手が使用していたものが古く、すでに廃番になっているケースがあります。取り扱いがある場合でも、生産量が減り金額が上がっていることがあります。
そのため、プローブやスコープを追加する場合は、事前に種類や数量について確認をしておくと安心です。
3 電子カルテ(更新時期、施設基準などの確認)
電子カルテのシステムの更新時期の確認には、留意が必要です。機械によっては、更新費用が300万~400万円かかる場合があります。
また、電子カルテの仕様によって、抽出できるデータが異なります。令和6年度診療報酬改定により、データ提出加算や医療DX加算の施設基準で求められているデータを抽出する必要があります。しかし、古い電子カルテの場合、これらのデータを抽出できないことがあるため、事前の確認が必要です。
参考:
・厚生労働省保健局医療課 医療DX推進体制整備加算の算定要件について
・厚生労働省保健局医療課 令和6年度診療報酬改定の概要【医療DXの推進】
また、院内にサーバーやネットワークを設置する「オンプレミス型電子カルテ」を使用している場合、予約システムなどのシステムと連携できないケースがあります。
買い手が継承後に各種システムの導入を希望している場合は事前に確認しておくことをおすすめします。
Ⅲ.継承の機械がリースだった場合の留意点
次に、継承する医療機器がリースだった場合の留意点について解説します。
売り手がリース契約を結んでいた場合
1 名義変更の可否
まず、リース契約の名義変更の可否について確認する必要があります。
医療法人譲渡の場合、代表者である理事長が変更となるため、名義変更の手続きが可能か確認します。一方、事業譲渡の場合は、売り手の契約を引き継げるかどうか、引き継ぐ場合はリース契約の手数料について確認しましょう。
2 解約の場合の引き取り料など
リースを解約する場合、引き取り料や解約料などが発生します。そのため、引き取り料や解約料はどちらが負担するのか、売り手と買い手の双方で話し合う必要があります。
3 再リースの年払いについて
一般的に、リースは5~7年間の契約が多く、契約期間終了後に再度契約をする「再リース」の場合は、月払いではなく、1年間分を先払いするリース会社が多いです。そのため、リース期間内にクロージングがあった場合、再リースの年払いの負担は売り手と買い手のどちらが負担するか、事前に確認しましょう。
Ⅳ. その他
1 内装工事の工事期間中の医療機器保管場所について
医院継承をする際に、内装が古く工事が必要な場合、内装工事をしている間「医療機器はどこに保管しておくか」を考えておく必要があります。
医療機器の保管は、安全性を考えるならばメーカーに連絡をとり、メーカーの倉庫に保管するケースが多いです。この場合、保守点検料や保管料が発生するため、売り手と買い手のどちらが負担するのかを決めなければいけません。 メーカーの倉庫で保管しない場合は、内装工事の範囲を限定的にして、工事しないスペースに医療機器を保管するなどの対処が必要です。
2 短期間で故障が起きた場合
譲渡後、1カ月などの短期間で医療機器が故障してしまった場合、どのように対応するかを決めておく必要があります。
一般的に、クロージング日を境にして、クロージング後に起きたトラブルに関しては買い手が負担します。そのため、短期間で医療機器が故障した場合でも、事前に細やかな取り決めがなければ、買い手の負担となります。 双方で認識を統一するため「〇ヵ月の間に壊れてしまった場合は売り手が保証する」など、細かく保証内容を設定しておくことが重要です。
もしくは、買い手が譲渡前に、医療機器の動作確認を行い「動作確認以降に故障した場合は買い手が保証する」などの対処方法をとります。
Ⅴ. おわりに
ここまで、医療機器の継承に伴う留意点について解説しました。 本記事で解説した通り、医療機器の継承には多くの留意点があります。また「法人譲渡か事業譲渡か」「医療機器がリースか購入か」によっても、それぞれ留意点が異なります。
スムーズに医療機器を継承をするために、医療機器にも知識のあるコンサルタントに相談してみてはいかがでしょうか。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任