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G.C FACTORY編集部

クリニックM&Aの基礎

医療機関M&A 最終譲渡契約書の締結後に破談にできるか

 

Ⅰ.はじめに

医療機関M&Aにおいて、事業譲渡契約書や出資持分譲渡契約書などの、最終譲渡契約書の締結後から譲渡実行までの間に、様々な事情によりを破棄してしまうことがあります。
このようなことが起きないのが一番ですが、今回は最終譲渡契約締結後に破談することはできるのかについて、詳しく解説します。

Ⅱ. 一般的な譲渡契約書の解除に関する記載

譲渡契約書の一般的な記載事項には、以下のようなものがあります。

 

1 解除条項

一般的な譲渡契約書には、解除に関して、以下のように記載があることが多いです。

 

(1)表明保証又は契約上の義務に重要な点で違反し(軽微な違反は除く)、相手に対して書面での通知を行った後、相当な期間が経過しても違反が是正されない場合は、譲渡実行までの間に書面で通知をすることで、契約を解除することが出来る。

(2)譲渡実行までの間に、以下の事項の1つでも発生した場合には、直ちに契約を解除できる。

・破産手続きの開始、民事再生手続きの開始、その他法的倒産手続きの申し立てがされた時

・営業の廃止、解散の決議又は、司法や行政機関等から業務停止や、その他の業務継続不能の処分を受けた時

・その他、上記に準ずる事案が生じた時

(3)天災地変やその他の不可抗力によって、承継資産に重大な毀損や減失が生じた時は、書面通知を行うことで、契約の解除又は変更が出来る

 

以上です。つまり、一般的には特別な事情が無い限りは、契約の解除は出来ません。

 

2 案件毎の特殊事情

1の解除条項以外にも、事前に案件毎に特殊事情について定め、合意をしていることがあります。

例えば、「不動産オーナーの賃貸承諾を得られなかった場合」「重要な非常勤勤務の先生が退職することになった」等の場合には、解除出来るようにすると事前に定めている場合には、譲渡契約締結後の解除が可能となる場合があります。

Ⅲ. 過去に破談になったケース

表明保証違反や契約の前提となる義務の不履行など、どちらかの一方的な都合により破談になることがあります。ここでは、過去に破談になったケースについて解説します。

 

1 管理医師採用の失敗

買い手が、売り手と事前に約束した期間に採用が出来なかったことで、破談になってしまったケースです。買い手が医療法人の場合に、譲渡後に分院長を採用するという約束をしており、この案件では、最終譲渡契約書を締結した時点で、分院長の候補と雇用契約を締結していました。

ですが、急な事情により譲渡後に雇用することが難しくなり、譲渡実行日までに管理医師を用意することが出来ずに破談となってしまいました。

 

2 資金調達の失敗

買い手は、譲渡対価を支払う際に、銀行から融資をする予定でしたが、銀行から融資を断られてしまったケースです。資金調達が出来る前提で譲渡契約書を作成していた為、買い手の一方的な都合により破談となりました。

 

3 賃貸借契約書の引継ぎ不可

賃貸借契約書の引継ぎが可能であることを前提に、最終譲渡契約締結を進めていたにも関わらず、最終譲渡契約の締結後に、賃貸オーナーから「賃貸の引継ぎは出来ない」と伝えられたことで、破談となりました。

 

4 買い手側の一方的な都合

上記のような明確な理由はなく、買い手の一方的な都合で解除を申し出るケースもあります。売り手からは分かり得ない事情を理由として、買い手から解除されることも起きているのが現状です。

Ⅳ. 破談にした場合の賠償に関して

上記のような理由で破談になってしまった場合、まずは最終譲渡契約書に基づき、破談理由が解除条項に記載されているかを確認します。

例えば、前述した賃貸契約書の引継ぎ不可のケースに関しては、「最終譲渡契約を締結後に賃貸オーナーに確認し、了承を得られない場合には契約を解除する」という内容を、あらかじめ記載していることもあります。

そのような事項に該当しない場合は、解約を申し出た側の一方的な解除となる為、原則として損害賠償請求となります。
損害賠償請求になった場合は、弁護士に相談して賠償について話を進めていくことになります。

損害賠償は、

 

  • これまで相談をしてきた専門家に支払った費用
  • スタッフへ周知したことで、既に退職者が出てしまっている
  • 院長交代を伝えたことで、患者数の減少が生じてしまった
  • 次の買い手を探索する為にかかった専門家の費用や、仲介会社の発注に対する費用
  •  

    など、実際の損害に基づいて金額が変動し、必ず譲渡対価全額を回収できるわけではない点は注意しましょう。

    Ⅴ. 終わりに

    ここまで、最終譲渡契約締結後の破談について、実例とともに解説をしました。

    もちろん、破談にならずに譲渡実行までスムーズに進むことが一番ではありますが、万が一破談になってしまった場合に備えて、継承前に解約条項や案件毎の特殊事情など、破談に出来る条項は詳細に定めておくことが大切です。

    その上で、買い手が破談を申し出た場合には、弁護士を入れて損害賠償請求をすることになりますが、一般的には全額の回収をすることは出来ない為、新たに次の買い手を探す必要があります。

     

    以下のコラムも、是非ご参考ください。

    <参考コラム>

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    著者:株式会社G.C FACTORY 広報部

    日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
    大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
    様々な背景を持つメンバーで構成しています。

     

     

     

     

    監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)

    (株)G.C FACTORY 代表取締役

    経歴:

    国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

    実績・経験:

    ・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

    ・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

    ・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任