クリニックM&Aの基礎
医療機関M&A 継承後にトラブルに至ったケース
目次
Ⅰ.はじめに
医療機関M&Aが無事にクロージングした場合も、継承後にトラブルが発生するケースがあります。そして、これは事前に注意をして対策することで防ぐことが可能です。
今回は、継承後にトラブルが起きてしまった5つのケースについて解説します。これから継承を考えている先生方のご参考になれば幸いです。
Ⅱ. 医療機器に不具合が起きてしまったケース
クロージングの数日後に医療機器が壊れてしまった場合、医療機器の修理や交換について売り手と買い手で意見のすれ違いが起きることがあります。
通常、譲渡実行後に医療機器が壊れた場合、譲渡契約書に特別な定めをしていなければ、買い手の責任になってしまうことが多いです。つきましては、買い手はこのようなトラブルが起きないように、継承前に医療機器の動作確認をしっかりと行うことが必要です。
また、継承前に壊れかけていた医療機器があれば、売り手は買い手に対して事前に伝達しておき、壊れてしまった場合の対応方法について事前に取り決めをしておくことが望ましいです。
例えば、「譲渡から〇か月以内に壊れてしまった場合は、売り手が補償する」「壊れかけているため、譲渡資産から外しておく(その分譲渡価格から引いておく)」など、事前の交渉をしておくと安心です。
Ⅲ. 医療法人に後から請求書が届いてしまったケース
医療法人の譲渡後に、売り手も把握していなかった請求書が買い手の元に届いてしまうことがあります。原則としては、クロージング前は売り手、クロージング後は買い手とクロージング日を境にして支払い義務を分担します。
よくある例として、売り手の決算時に譲渡を行った場合に発生する決算代の請求書が、数カ月後に買い手の元に届いた場合、どちらに支払い義務があるのかとトラブルになることがあります。また、法人税などの税金に関しても同様のトラブルが起きやすい傾向にあります。
通常は、譲渡日を境に支払い義務が発生しますが、期中に発生した費用の支払いなど、区切りが曖昧になりやすいものに関しては、事前に細かく取り決めておく必要があります。他にも、従業員の賞与の支払い義務などもトラブルの要因となりやすいため、留意が必要です。
Ⅳ. 継承後にスタッフの勤務条件を変更してしまったケース
継承後に、買い手が診療時間や勤務日などの変更を行い、スタッフの待遇を変更してしまった場合も、スタッフの退職に繋がり、スタッフの雇用維持を求めて継承をした売り手とトラブルになることがあります。
このようなトラブルを防ぐためには、買い手が継承後に考えている診療や体制方針を事前に売り手に共有しておくことや、「〇ヵ月間は勤務条件を変更しない」という内容を契約書に記載しておくことが考えられます。特に、売り手がスタッフの継承を必須条件にしていた場合には、継承前に必ず買い手の方針を伝えておくとトラブルになりません。
Ⅴ. 行政手続きに漏れがあったケース
行政手続きのトラブルは、法人譲渡に多い傾向にあります。
本来であれば、医療法人が行うべき年に1回の事業報告・役員重任の手続き・定款変更の手続き・クリニックの入っているテナントビルの名称変更の手続きなどに漏れがあった場合に、譲渡後にトラブルの要因となります。事前に確認するとともに、契約書の表明保証に定めておく必要があります。
また、法人譲渡の場合は買収監査をしっかりと行い、譲渡前に医療法人の書類を確認することが重要です。行政手続きのトラブルを防ぐためにも、契約書での取り決めと買収監査は行うことを推奨します。
Ⅵ. 継承後に賃料が変わってしまったケース
譲渡日の数カ月後にテナント賃貸の更新日を予定している場合、譲渡後に更新日が来て、賃料が大幅に上がってしまうケースがあります。
原則として、売り手が賃料改定の事実を知っていて隠していた場合などを除き、売り手が補償することにはなりません。
ただし、トラブルの要因となるので、譲渡日と更新日が近い場合には、更新に伴う賃料の値上げが発生するかを事前にオーナーに確認するなど、トラブルにならないような進め方が望ましいです。
Ⅶ. おわりに
ここまで、継承後に起きるトラブルについての事例と留意点を解説しました。継承後に起きるトラブルのケースは、ある程度パターンが決まっています。
そのため、継承後に起き得るトラブルについて事前に話し合い、合意した内容を契約書に記載しておくことが重要です。
また、継承後のトラブルを防ぐためにもM&A専門のコンサルタントに相談をしながら進めることをおすすめします。弊社では、M&A専門のコンサルタントが継承後も幅広くサポートをしておりますので、お困りの際はぜひお気軽にご相談ください。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任