G.C FACTORY編集部

M&A法務、契約関連

医療機関M&Aの基礎⑥「事業譲渡契約書とは。留意点について」

 

Ⅰ.はじめに

前回は「基本合意契約書締結」について解説をさせていただきました。M&Aでは、その基本合意後に買収監査を実施して、売り手と買い手の双方が内容に合意すると、最終契約として、事業譲渡契約書を締結するのが一般的です。

基本合意契約は法的拘束力を持たない条項が多いですが、事業譲渡契約書は最終契約であり、法的拘束力を持つのが特徴です。また、記載内容も具体的な決定事項が中心となります。事業譲渡後のトラブルを回避する役割もある為、細かく決める必要があります。

本記事では、事業譲渡契約書を結ぶケースから、事業譲渡契約書の主な記載事項とその留意点について詳しく解説します。

 

Ⅱ.事業譲渡契約書を結ぶケース

まずは、事業譲渡契約書を結ぶケースについて解説します。 事業譲渡契約書を結ぶケースには、主に4つのパターンがあります。それぞれのケースによって行政手続きのスケジュールが異なる為、注意が必要です。

 

① 売り手が個人クリニック、買い手も個人の医師である場合

双方が個人の場合は、行政手続きは保健所と厚生局になります。医療法人と異なり、定款変更や登記は必要ないので、比較的手続きは簡単に済み、スケジュールも短期間で終わることが特徴です。

 

② 売り手が個人クリニック、買い手が医療法人の場合

買い手が医療法人の場合には、譲渡後に譲渡されるクリニックが医療法人の分院として増えることになる為、分院設立の定款変更、登記をします。都道府県から定款変更の認可が取れ次第、保健所と厚生局の手続きとなる為、個人同士の場合に比べて時間を要します。具体的には医療法人の定款変更で3か月間ほど、登記で10日間ほど、保健所の開設許可申請に2週間ほどかかる都道府県が多いです。

 

③ 売り手が医療法人、買い手が個人の場合

売り手が医療法人であり、いくつか運営しているクリニックの中の1つを売却する場合、その医療法人で分院を廃止する定款変更が必要です。その後、クリニックを承継するにあたって、個人である買い手の方で保健所と厚生局への申請が必要となります。

 

④ 売り手が医療法人、買い手が医療法人の場合

双方が医療法人のため、売り手は分院の廃止、買い手は分院の設立のために定款変更の申請をする必要があります。

都道府県の認可が取れ次第、保健所と厚生局に申請を出しにいく手続きが必要となる為、スケジュールに多くの時間を要します。

 

ちなみに、③、④の売り手が医療法人の際に必要となる廃止の定款変更については、保健所の廃止をした後でも認めてくれる都道府県、保健所もあります。一方で、買い手が医療法人の場合の分院設立手続きについては、保健所の開設許可申請の前に定款変更が必要となり、行政手続きのスケジュールが長くなります。これらの行政手続きの順序や期間を把握したうえで、事業譲渡契約書を作成していくことが求められます。

 

Ⅲ. 事業譲渡契約書の記載事項・留意点

次に、事業譲渡契約書に記載される内容について解説をします。

以下は、弊社の支援先の例を元に、譲渡契約に記載される内容1つ1つの記載事項や留意点となります。

 

1 事業の譲渡をする旨(主目的)

売り手は、この事業譲渡契約書に従い、譲渡日に買い手に事業を譲渡することが記載されます。また、買い手も譲渡日に事業を譲り受けることが記載されます。

 

2 譲渡対価

事業を譲り受ける対価について記載をします。 注意点として、事業譲渡は医療法人の出資持分譲渡と異なり、消費税がかかります。

 

3 承継資産

事業譲渡の場合は、医療法人の譲渡と異なり、譲渡によって事業に帰属する資産が自動的に引き継がれるわけではないため、承継資産のリストを細かく作成し、物品の不要必要の意向は双方で合意しておく必要があります。内装や医療機器だけではなく、例えば、机、パソコン、時計など承継したい物は細かくリストアップします。

 

4 承継債務

債務についても医療法人の法人譲渡の場合は、基本的に承継することになりますが、事業譲渡の場合、負債も売り手個人に紐づいている為、事業を譲渡するだけでは負債は承継されません。もしも引き継ぐ負債がある場合には、契約書に記載をして債権者との相談が必要となります。

 

5 承継契約

こちらも法人の場合はすべての契約がそのまま引き継がれますが、事業譲渡の場合は、医療機器、リース、賃貸借契約書、雇用契約書などの再契約が必要となります。 この時も負債と同様に、一方的な再契約とならないように相手側の合意をとりましょう。

また、特に注意が必要なのが、賃貸契約書です。売り手が事業譲渡契約にて買い手に事業を承継しても、不動産オーナー側が契約の継承を拒んだ場合、事業が成り立たなくなってしまいます。このような事態にならないように、賃貸でクリニックを借りている場合は事業譲渡契約の締結前に、一度不動産オーナーに確認をするか、賃貸借契約書の引継ぎができなかった場合の取り決めを事業譲渡契約書に記載する必要があります。

 

6 許認可

売り手は事業廃止の手続き、買い手は新しいクリニックを設立する手続きを行う必要があります。この時のスケジュールや費用分担なども事業譲渡契約書に記載をしておきます。

 

7 従業員の承継

事業譲渡の場合、売り手と従業員との雇用契約は一度終了します。その後、雇用を継承するかどうかは買い手と売り手の交渉になりますが、

① 継続勤務を希望する従業員は全員引き継ぐことが必須条件 ② 買い手が従業員と面接をして、買い手が希望する従業員は雇用する ③ 原則、全員引き継がない

のいずれかになります。このことについて、事前に売り手と買い手で決めておき、合意した内容を事業譲渡契約書に盛り込みます。

 

8 譲渡実行

譲渡を実行する日程、方法、場所などを記載します。

 

9 譲渡実行における売り手・買い手の義務

譲渡実行における、双方の履行事項を記載します。

例えば、売り手の場合は、譲渡資産を買い手に移行すること、保健所への廃止届を買い手に渡すなどです。買い手の場合は譲渡対価を支払うことなどです。

 

10 費用等の清算

一般的には、譲渡日を境に、事業の費用の支払者が変更になります。

よって、最終契約書にも譲渡日までに生じた費用は売り手、それ以降は買い手が清算するという内容を記載します。譲渡後に請求書が届くケースもある為、その費用の発生日を元に、ルールを決めておく必要があります。

従業員の給料の支払いについても同様です。例えば、給料が末締め翌25日払いの場合は、発生主義に基づいて支払い義務が発生します。

買い手と売り手で相談し、「この費用とこの費用はこうやって分担しよう」と記載することもあります。譲渡後のトラブルの原因とならないように、双方の合意の元で、費用負担のルール決めておくことが重要です。

 

11 売り手による前提条件

譲渡を行うにあたっての前提条件を記載します。例えば以下のようなものがあります。

・これまでの段階(基本合意契約など)で決めてきたことに対して、正確かつ虚偽がないこと

・譲渡日までに、事業譲渡契約書に記載している条件を満たし、違反していないこと。(例えば、賃貸オーナーの引継ぎ許可の取得など)

・契約が解除となるような事が起きていないこと

 

12 買い手の前提条件

売り手の前提条件と同様に、譲渡にあたっての前提条件を記載します。

・医師免許を所持していること

・融資の承諾などを取れていて、十分な資金があることなど

売り手も買い手も前提条件が満たされなければ、譲渡は実行されないということも記載します。

 

13 表明保証

表明保証とは、最終譲渡契約日やクロージング日において、契約当事者に関する事実、売り手医療法人や譲渡対象クリニックに関する財務や法務の内容等の契約に関わる事項が真実かつ正確であること表明し、その内容について、相手に保証するものです。

例えば以下のようなものがあります。

① 売り手の表明保証

・事業を運営する為に必要な権利能力・行為能力・責任能力を有していること

・契約の締結や実行、契約に企図されている取引の実行に必要な能力や権限を有していること

・契約の締結や実行、契約に企図されている取引の実行が法令等に違反していないこと

・契約や契約に企図されている取引は、法にかなっており、法的な拘束力を義務としている為、買い手はその条項に従って強制執行が可能であること

・倒産に関する手続きが行われていたり、倒産になるような原因も存在していないこと

・契約が解除となるような訴訟やトラブルが起きていないこと

・反社会的勢力ではないこと、交流を持っていないこと

・クリニック運営に関して、重大な違反が存在しないこと

・買い手に交付した確定申告書(試算表含む)には、正確な財政状態や経営成績を示していること

・買い手に提示した全ての情報は正確かつ虚偽がない情報であること

・承継後の運営に影響を及ぼすような情報や事実について全て提示していること

・譲渡対象資産には、継承後に円滑に運営する上で必要な資産が全て含まれていること

・従業員の雇用条件において、違反やトラブルが起きていないこと

・契約日から譲渡日までの間に、買い手の書面での承諾なく、資産の譲渡や処分、新たな設備などの仕入れや当新たな契約の締結や解約、従業員の大幅な採用や解雇などを行わないこと

 

② 買い手の表明保証

・事業を運営する為に必要な権利能力・行為能力・責任能力を有していること

・契約の締結や実行、契約に企図されている取引の実行に必要な能力や権限を有していること

・契約の締結や実行、契約に企図されている取引の実行が法令等に違反していないこと

・契約や契約に企図されている取引は、法にかなっており、法的な拘束力を義務としている為、売り手はその条項に従って強制執行が可能であること

・倒産に関する手続きが行われていたり、倒産になるような原因も存在していないこと

・反社会的勢力ではないこと、交流を持っていないこと

 

などです。上記はあくまでも例でして、買収監査の実施の有無や、買収監査の際の懸念事項などを加味して、表明保証の記載を足したりすることもあります。

 

14 競業避止

競業避止とは、譲渡実行後に、売り手が同じエリアや近隣のエリアで競業するクリニックの開業をしたり勤務をしたりすることを禁止します。記載する内容には、○年間は半径○メートル圏内には開業しないなどの具体的な範囲や期間を定めて記載します。

 

15 買い手の誓約事項

買い手は、譲渡実行後に円滑に清算手続きをすることを約束します。

 

16 診療責任

事業譲渡では、譲渡する前は売り手、譲渡後は買い手に診療責任があることを明文化します。これを記載することで、医療訴訟などが起きた時にその責任の所在を明確にできます。

 

17 診療の引継ぎ

診療の引継ぎには、

① 譲渡前の売り手のクリニックに、買い手が非常勤医として勤務 ② 譲渡後の買い手のクリニックに、売り手が非常勤医として勤務

の2パターンが想定されます。それぞれのパターンに対して、時給や出勤頻度などについて合意した具体的な内容を記載します。

さらに、診療に限らず、ただクリニックを見学しに来た場合や、少し助言する程度の訪問時に対する場合の給料についても双方で齟齬のないように細かく決めておくと良いでしょう。

 

18 診療記録の取扱い

今まで診療してきたカルテ(診療記録)の保管期間についても、引き継ぐ必要があります。カルテは、最低5年間保管することが法的に義務付けられています。

しかし、譲渡後に売り手がカルテをすべて引き取ることは現実的ではありません。また、買い手からしても今までのカルテの情報は必要な情報であるため、譲渡後にすべてのカルテを買い手に引き渡すことが一般的です。

 

19 解除

基本的に、事業譲渡契約を締結すると、それ以降は契約の解除はできません。

しかし、表明保証や今回の契約の前提条件に違反した場合には、違反された側が解除することは可能とする条項をいれることがあります。また、事業譲渡契約後に不正の発覚や、訴訟されたなどの特別な事情の際にも解除することが出来ます。

さらに、どちらかの病気が発覚し入院することになった、大震災によって診察が出来なくなったなどのやむを得ない事情で廃止しないといけない場合にも、解除又は一部内容の変更をすることをできるようにすることがあります。

 

20 保証

損害賠償請求のルール決めをします。保証期間や損害賠償をする場合は譲渡対価までにするなどの上限を決めることもあります。

 

21 秘密保持

M&Aの中で機密保持契約書の締結はしていますが、事業譲渡契約時にも、「改めてお互いの個人情報や経営状況などの機密情報は守りましょう」ということを記載し、約束をします。

 

22 譲渡等の禁止

事業譲渡契約書の権利を、相手の同意なく第三者に譲れない内容を記載します。

 

23 費用負担

事業譲渡契約書を結ぶ際にはアドバイザーの発注をすることが一般的ですが、その発注費用についてはそれぞれで負担します。また、印紙税など手続きにかかる費用もそれぞれで負担することを記載します。

 

24 契約変更

契約変更をする場合は、書面での合意が必要となります。基本的に、事業譲渡契約の変更は合意のない場合には出来ません。

 

25 完全合意

事業譲渡契約前に結んでいた基本合意契約での内容や、メール又は口頭でのやり取りを含めて、事業譲渡契約前にいかなるやり取りがあったとしても、この事業譲渡契約書の文面以外のことは失効されます。

 

26 通知

相手側に何か通知をする場合の方法を記載します。書面とすることが多いです。

 

27 裁判管轄

何か揉め事が起きた場合に、どこの裁判所でやるのかを決めます。

どこか具体的な裁判所を記載したり、被告の住所管轄の裁判所に定めたりもします。

 

Ⅳ. おわりに

ここまで事業譲渡契約書について、事業譲渡契約を結ぶケースから、主な記載内容について解説をしてきました。

事業譲渡契約書は、基本的に案件ごとに個別事項を反映して作成する為、ここに記載した事項がすべてではありません。あくまで一例として、今後の参考にしていただければ幸いです。

 

事業譲渡は、法人譲渡とは異なり、すべてが丸ごと引き継がれるわけではありません。譲渡後にトラブルにならないように、引き継がれることをひとつひとつ詳細に抽出して記載していくことが重要です。

弊社では、事業譲渡契約の締結はもちろんですが、その後の譲渡実行(クロージング)まで誠実な支援をさせていただいております。事業譲渡をお考えの際には、是非お気軽にお問い合わせください。

 

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著者:株式会社G.C FACTORY 広報部

日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。

 

 

 

 

監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任