G.C FACTORY編集部

クリニックM&A

医療機関M&Aの基礎⑦「出資持分譲渡契約書とは。留意点について」

 

Ⅰ.はじめに

出資持分譲渡とは、現状、医療法人のM&Aで最も多く利用されている譲渡方法です。事業の一部を譲渡する事業譲渡とは異なり、出資持分譲渡による法人譲渡は出資持分の所有権及び、医療法人の社員と理事の地位を引き渡すことでM&Aを成立させます。

 

本記事では、出資持分譲渡契約書を結ぶケースから、契約書の記載事項、留意点について詳しく解説します。医療法人の譲渡をお考えの方のご参考になれば幸いです。

 

▼事業譲渡の場合を知りたい人はこちらをご参考ください。

医療機関M&Aの基礎⑥「事業譲渡契約書とは。留意点について」

 

Ⅱ.出資持分譲渡契約書を結ぶケース

医療法人の出資持分を譲渡する場合に、出資持分譲渡契約書を結びます。しかし、すべての医療法人のM&Aで出資持分譲渡契約書を結ぶわけではありません。

 

1.  出資持分譲渡契約書を結ばないケース

まず、出資持分譲渡契約書を結ばないケースをご紹介します。

 

(1)平成19年4月以降に設立した医療法人の場合

医療法人は平成19年4月の法改正によって、出資持分ありの医療法人の新設ができなくなりました。その為、これ以降に設立された医療法人は、基金拠出型医療法人や持分なし医療法人となります。

基金拠出型医療法人の譲渡の場合は、基金譲渡契約書を締結する必要があり、スキームや税金の取扱いも出資持分譲渡契約書とは多少異なります。

 

(2)出資持分の払い戻しをした医療法人

平成19年3月31日以前に設立された医療法人の場合、持分保有者が社員資格を失った人は出資額に応じて払い戻し請求をすることが出来ます。

具体的には、医療法人の社員の退任時、除名時、死亡時などです。元々持っていた出資持分を払い戻してしまうと、出資持分なしの医療法人となり出資持分譲渡契約の対象外となります。

 

2.  出資持分譲渡契約書を結ぶケース

上記の通り、社団医療法人のM&Aでは、上記の「1」の場合以外は、出資持分譲渡契約を締結することになります。

現在、医療法人を継承しようと考える先生の多くはご高齢で、医療法人も歴史がある場合が多く、平成19年4月の法改正以前に医療法人を設立しています。その為、先述の通り、出資持分譲渡契約を利用する人が多いのが現状です。

今後、時間の経過と共に平成19年4月以降に設立された基金拠出型医療法人も増えていくと予想されます。

 

Ⅲ. 出資持分譲渡契約書の記載事項、留意点

ここからは出資持分譲渡契約書の記載事項と、その留意点について解説します。

 

出資持分譲渡契約書に必ず記載する事項

出資持分譲渡契約書に記載する内容の例は、以下の通りです。

  • 譲渡価格
  • スキーム
  • 重要物品の引き渡し
  • 行政手続きなど譲渡日までスケジュール
  • 譲渡時点での貸借対照表の状態
  • 表明保証
  • その他の一般条項に関しましては、事業譲渡契約書と近しい内容の為、下記のコラムをご参考ください。

    参考:医療機関M&Aの基礎⑤「事業譲渡契約書とは。留意点について」

     

    以下、出資持分譲渡契約書の記載事項と留意点について、詳しく解説します。

     

    (1) 譲渡価格

    譲渡価格を記載する前提として、出資持分は「出資持分を誰が何パーセント所有していて、買い手にいくらで譲渡するのか」ということを明記する必要があります。

    売り手が受け取る対価の一部または全額を退職金とする場合、出資持分の譲渡対価+退職金の合計額がこのM&Aの譲渡対価となり、M&Aの譲渡対価=出資持分の譲渡価格にならないケースもあるので注意しましょう。

     

    (2) 契約日と譲渡日

    事業譲渡と同様に、出資持分譲渡契約においても契約日と譲渡日を別で定めることが多いです。理由としては、買い手が譲渡契約締結後に、資金調達をしたり、現職を辞めたりする必要があり、その時間を確保する意味合いがあります。

    また、例えば医療法人の継承に伴い、「法人名を変えたい」「決算時期を変えたい」「譲渡のタイミングで別の事業を組み込みたい」という場合には、定款変更が必要になります。また売り手の方で現社員、現役員の退任の社員総会を開き、退任届用意いただく必要があります。

    そういった準備期間があるので、契約日と譲渡日を合意の上で定める場合が多いです。

     

    (3) スキーム

    出資持分譲渡契約の場合、出資持分を買い手に譲渡すると同時に、医療法人の最高意思決定機関である社員総会の社員と、執行機関である理事会の理事長、理事、監事を交代することになります。

     

    株式会社の場合、最高意思決定機関である株主総会では、株主が取締役の選任する権利をもっていますが、医療法人の場合には、出資持分を所有しているだけでは、権限は持たないため、出資持分を譲渡するときには必ず社員と役員の交代をする必要があります。この、出資持分譲渡に伴い、社員と理事を変更するスキームは、出資持分譲渡契約書に必ず記載します。

     

    (4) 重要物品の引き渡し

    印鑑や通帳はもちろんですが、出資持分の譲渡の場合には、社員と役員の変更書類も重要物品となります。つきまして社員・理事の名簿や持分保有者の明細も提出する必要があります。

    また、社員総会の議事録も提出します。旧売り手の社員総会で議決した内容(出資持分譲渡すること、役員の変更を行うことなどを記載した議事録)も重要物品として、買い手に引き渡します。

     

    <その他の重要物品例>

  • 譲渡にかかる金額の領収書
  • 決算書、確定申告書
  • 実印、認印、銀行印、印鑑登録カード
  • 預金通帳、キャッシュカード、クレジットカード、暗証番号情報など
  • 現社員と現役員を含めた印鑑登録証明書(※直近3カ月以内発行)
  • 社員と役員の退任届
  • 譲渡を承認した社員総会議事録を含む、過去の議事録
  •  

    (5) 売り手の前提条件

    表明保証の内容に間違いがないことを明記します。

    他にも、行政機関からの仮申請についても記載します。具体的には、譲渡実行するまでの間に定款変更を通すことが双方合意の上で決まっている場合に、「行政機関からの定款変更の承認を受けており、それを証明できる」ことも、売り手の前提条件に入れる必要があります。

     

    (6) 買い手の前提条件

    売り手の前提条件と同様、表明保証に間違いがなく守ることを明記します。また譲渡後のトラブル回避として、現社員や理事に譲渡の承諾を得ている旨を記載するケースもあります。

     

    (7) 表明保証

    事業譲渡と異なり、法人譲渡の場合は簿外債務や係争などがあった場合に、買い手に引き継がれてしまいます。よって、より詳細に表明保証の欄を記載する必要があります。

    また、事業譲渡の違いとしては、役員や社員のメンバー構成に間違いがないことも記載します。

     

    <表明保証の記載例>

  • 現社員や理事のメンバー構成や出資持分の保有割合に間違いがないこと
  • 開示していること以外の裁判や訴訟、トラブル、簿外負債が無いこと
  • 決算書などの財務書類に間違いがなく、適正な処理が行われていること
  • これらの事項に関しては、必ず正確な情報を記載しましょう。

     

    (8) 行政手続き

    譲渡に伴って生じる定款変更、登記、役員変更、管理者変更などの行政手続きが生じる場合、売り手と買い手で定款変更する内容について話し合い、合意した内容を記載します。その際に、スケジュールやかかる費用の負担についても記載をします。

     

    (9) 対象法人の運営

    上記の通り、譲渡契約締結から譲渡実行まで一定の期間を設けることがあります。その期間中に、売り手が買い手の承諾なしに行ってはいけない事項を定めます。

    具体的には以下の通りです。

  • 定款やその他の規定の制定や変更、廃止
  • 新しく出資を受け入れること、現在の出資持分を処分すること
  • 経営に影響を及ぼす行為(合併、事業譲渡、支配権の変更)
  • 社員、役員の変更
  • 事業計画、予算の決定、会計方針の変更
  • 新規契約の締結、変更、解約など
  • 新規事業の開始、既存の事業の縮小や撤退など
  • 訴訟などの手続きを始める
  • 解散、清算、倒産手続きの申し立て
  •  

    (10) 医療法人の貸借対照表の状態について

    出資持分譲渡は事業譲渡と違い、継続される法人を引き継ぎます。よって、譲渡の直前まで譲渡される医療法人の貸借対照表は変動します。

    例えば、5月末に譲渡契約を締結し、譲渡実行は12月末とした場合、5月末の契約時には譲渡日である12月末時点の貸借対照表の状態は把握できません。

     

    契約日から譲渡日までの間に、売り手の医療法人には利益が出ることや、赤字になることがあります。その為、譲渡時点での貸借対照表の状態や、清算する際の取り決めを記載する必要があります。

     

    Ⅳ. おわりに

    ここでは出資持分譲渡契約の留意点や記載事項について解説をしました。

    事業譲渡と異なる点としては、譲渡前の契約や訴訟やトラブルもすべて買い手に引き継がれることです。それを補うための取り決めをして、譲渡実行する必要があります。

     

    事業譲渡にしても、出資持分譲渡にしても、様々なケースが想定されるため、いずれにしてもそれぞれM&Aの構図を理解した上で進めていくことが大切です。

    医療法人の出資持分譲渡を検討している場合には、専門のコンサルタントに相談することをおすすめします。弊社では、医療機関M&Aの知識と経験が豊富なコンサルタントが、最後まで誠実に支援する体制が整っております。医業継承をご検討の際には、是非お気軽に問い合わせください。

     

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    著者:株式会社G.C FACTORY 広報部

    日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
    大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
    様々な背景を持つメンバーで構成しています。

     

     

     

     

    監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)

    (株)G.C FACTORY 代表取締役

    経歴:

    国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

    実績・経験:

    ・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

    ・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

    ・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任