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G.C FACTORY編集部

新規開業、承継開業

「新規開業」か「承継開業(M&A)」か? 7つの視点で徹底比較

開業する際に、ゼロから自分でクリニックを「新規開業」するのか、既存のクリニックを引き継いで「承継開業(M&A)」するのか、悩む医師も多いでしょう。
今回は、新規開業と承継開業(M&A)のメリット・デメリットを、患者さん・スタッフ・コストなど7つの視点で比較します。開業にあたり、新規開業か承継開業(M&A)か悩んでいる方はぜひ参考にしてください。

 

Ⅰ.「新規開業」か「承継開業(M&A)」かを悩む医師

 

かつては、開業すれば患者さんがたくさん来院し、比較的容易に黒字化できた時代もありました。しかし、昨今では、医療費抑制のため診療報酬が下がり、クリニックの増加によって患者さんの獲得競争が激化し、医院経営を取り巻く環境は厳しさを増している地域もあります。その為、開業したものの、勤務医時代の年収を超えられないというケースも少なくありません。

 

また、近年では開業にあたり、新規開業ではなく承継開業(M&A)も視野に入れる医師が増えてきました。

 

新規開業とは、ゼロから自分でクリニックを立ち上げる方法です。一般的に、銀行から借入をして、建物や医療機器等に初期投資して、事業をスタートします。最初は個人事業として始め、事業が軌道に乗り始めたら、医療法人化を検討することもあります。

 

承継開業(M&A)とは、売却(M&A)を希望するクリニックを買収し、事業を引き継ぐ形でクリニックを始める方法です。基本的に、建物や医療機器、患者さん、スタッフのすべてを引き継ぎます。承継開業(M&A)の場合、最初から医療法人を引き継ぐことも可能です。

 

売却を希望するクリニックの多くは、院長が高齢で、後継者がいないという問題を抱えています。また、院長の持病の悪化など、やむを得ない事態によって売却を希望されるケースもあります。いずれにせよ、M&Aによってクリニックが継続することで、地域の患者さんやスタッフを守ることができます。

 

 

Ⅱ.「新規開業」or「承継開業(M&A)」――7つの視点で徹底比較

 

新規開業と承継開業(M&A)にはそれぞれメリット・デメリットがあり、一概にどちらがいいとは言えません。大切なのは、開業にあたり何を重視するのか自分自身の価値観を知り、自分に合った選択をすることです。続いて、新規開業と承継開業(M&A)を7つの視点で比較していきます。

 

1.場所

新規開業の場合、制約が少なく、好きな場所を開業地として選ぶことができます。開業地選択の自由度が高いのは、新規開業といえるでしょう。

 

しかし、どこで開業してもうまくいくというわけではありません。来院患者予測数を見積もったり、競合クリニックを調査したりする中で、候補地は絞られてきます。

 

承継開業(M&A)では、売却を希望するクリニックの中から、場所をはじめとしたさまざまな条件を比較検討して選ぶことになります。開業地をまったく選べないというわけではありませんが、一定の選択肢の中から選ぶことにはなるでしょう。しかし、それは一概にデメリットともいえません。

 

新規開業の場合、希望する場所で開業したとして、果たしてどのくらい患者さんが来院するのか予測を立てることができたとしも事前に知ることができません。診療圏分析は、開業希望地を基点として、診療圏内の地域患者数を病医院数で割り患者数の推移を予測しますが、これはあくまで予測です。

 

一方、承継開業(M&A)の場合、その場所でクリニックを経営してどのくらいの患者さんが来院するのかをあらかじめ知った上で医院経営をスタートできます。承継時、現在に至るまでのレセプト枚数や推移から実績を把握することができるからです。

 

2.内装

内装の自由度が高いのは、新規開業です。賃貸の場合も、スケルトン物件がほとんどなので、内装工事で希望の配置やインテリアを決めることができます。建物を建築する場合、動線等を考慮して、設計に自分の希望を反映させることができます。

 

一方、承継開業(M&A)では、既存の建物を受け継ぐことになります。場所同様、売却を希望するクリニックの中から決めるので、一定の選択肢から選ぶことになります。ただ、承継開業(M&A)の場合にも、内装工事をすることは可能です。内装工事でガラリと雰囲気を変えることも可能ですが、承継開業(M&A)の場合には、徐々に修繕を加えて理想とするクリニックにしていくというケースが多いです。

 

3.患者

医師の専門性はさまざまなので、開業にあたり「このような患者さんを診療したい」「このような医療を提供したい」という希望は少なからずあることでしょう。新規開業の場合、ゼロから診療をスタートするため、自分のカラーを出せるのがメリットです。

 

一方で、自分の理想とする診療を行うためには集患対策が必要です。新規開業から数年は赤字のまま借入金の返済が続き、貯金残高が減るのを見て気が滅入ったといった苦労話を開業医から聞くことも多々あります。集患がうまくいかなければ、結局は専門性にこだわることもできません。

 

承継開業(M&A)の場合は、患者さんをそのまま引き継ぐことがほとんどです。そのため、初月から黒字を目指すことも可能です。一方で、承継後すぐの間は、患者さん離れを防ぐために、患者さんの要望をできるだけくみ取り、一定の配慮をしながら自分のカラーを出していくことがベターです。

 

4.スタッフ

新規開業の場合、新しいスタッフを募集することから始まります。地域の時給相場などを加味して求人広告を出し、応募のあったスタッフの採用を行います。

 

一般的に、オープン時は、スタッフが集まりやすい傾向があります。とはいえ、必ずしも希望する経験値や人柄のスタッフと巡り会えるとは限りません。経験年数が浅い、医療事務は初めて、同じ診療科での勤務経験がないなど、さまざまなケースに合わせて、スタッフを採用、育成する必要があります。

 

特に専門職は、希望する能力・人柄の人材を見つけるのが難しい傾向があります。開業にあたり知り合いの看護師に声をかけるなど、、タイミングを図りつつ早めに採用活動を開始した方がいいでしょう。

 

新規開業の場合、開業前に、スタッフ研修の期間を設けることが一般的です。患者さん対応や事務はお任せというのではなく、医師自身もスタッフの業務を把握し、サポートする姿勢が大切です。

 

承継開業(M&A)の場合、既存のスタッフを引き継ぐことが一般的です。雇用契約は、医療法人とスタッフの間で結ばれます。そのため、医療法人を承継した場合、基本的に雇用契約は継続します。

 

新しいスタッフを募集せずとも、経験豊富で患者さんや地域のことを熟知したベテランスタッフと診療をスタートできるのは、承継開業(M&A)のメリットといえるでしょう。レセプト業務なども、手慣れたスタッフがいれば一任できるため、医師にとっては心強い存在となります。

 

一方で、ベテランスタッフとの相性によって、開業後に苦労することもあります。できれば、M&Aを実行する前に、スタッフの様子を観察したり、売り手医師からの情報を得たり、キーマンとなるスタッフと面談をしたりすると安心です。

 

5.取引先

新規開業の場合、医薬品卸会社や医療機器メーカーは、すべて自分で選定します。また、医薬品や医療機器の価格交渉も、基本的に経営者が自ら行います。相見積もりをとって値段を比較して、業者に伝えて交渉する、という一連の流れをこなさなければなりません。このような仕事を勤務医時代に経験する機会は少ないでしょう。そのため、負担に感じる医師も少なくありません。

 

承継開業(M&A)の場合、医薬品卸会社や医療機器メーカーなどの取引先とのつながりも引き継げます。売り手医師がしっかり価格交渉を行っていれば、その卸価格を引き継げることもあります。ただし、承継後に卸価格を変更される可能性もないとはいえないので、承継前後で医薬品費率に変化がないかどうかはチェックしておきましょう。売り手医師によっては、価格交渉を行っていないこともありますので、新規開業同様、価格交渉を行う必要があるかどうかを事前に確認しておくとよいでしょう。

 

6.コスト

開業にかかる最低限必要な金額でいうと、新規開業にかかるコストの方が高い傾向があります。賃貸の場合内装工事費が必須ですし、建築する場合は多額の土地代や工事費がかかります。

 

くわえて、クリニックが建つということを周囲に周知する必要があります。道行く人に見える大きな看板を建てたり、最寄り駅や主要駅に駅広告を出したりすると、開業時の広告宣伝費は数百万円単位になることも少なくありません。HPをゼロから作成する場合、HPの製作費もかかります。

 

「M&Aは高いのでは?」と誤解している医師もいますが、最低限必要な金額でいうと、承継開業(M&A)の方が相対的に安い傾向があります。都心部などアクセスが良い地域で患者数の多い人気のクリニックの場合、譲渡価格は高い傾向がありますが、人気のクリニックでも、売り手の事情から譲渡を急いでいる場合、割安で譲受できることもありますので、案件の内容をよく吟味し検討しましょう。

 

そして、承継開業(M&A)の場合、医療機器を引き継げることもメリットの1つです。しかし、数年後に買い替えが必要となる可能性があるため、減価償却の明細などをみて、購入年月日をよく確認しておきましょう。買い替えが必要なら、その費用もあらかじめ見積もっておくことが大切です。内装工事を予定している場合は、その費用も含めて事業計画を立てましょう。

 

7.コンサルタント

新規開業の場合、できれば開業専門のコンサルタントや開業支援の経験がある税理士に依頼すると安心です。開業後に契約するという前提で、医薬品卸会社から無料の開業コンサルを受けることも可能ですが、あくまで無料の範囲での業務提供となります。

 

承継開業(M&A)の場合、M&A仲介会社に依頼してM&Aを実施することが一般的です。M&Aには専門性の高い複雑な手続きが必要です。特に医療機関の場合、行政対応など、他の業界とは異なる特殊性があります。そのため、クリニックのM&A支援実績がある仲介会社、できれば承継開業(M&A)の支援実績を豊富に持つ仲介会社を選びましょう。

 

M&A仲介会社の中でも、仲介を終えるとサービス終了となり関係性も終了してしまう会社と、承継開業(M&A)後の支援まで一貫して行っている会社がありますので、クリニック承継において何をどこまで支援を希望するかを予め決めて、希望が叶うかどうか仲介会社を選定する際の基準とするとよいでしょう。

 

 

 

執筆者:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

 

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

 

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任