新規開業、承継開業
クリニックの内装にかかる費用について
Ⅰ.はじめに
クリニックの開業を検討している先生方の中には、新規開業とM&Aどちらが良いのかと悩まれる方も多いかと存じます。
新規開業を悩まれる理由の一つとして「内装造作の費用が高い」点があると思います。特に、昨今は建築費が高騰していることあり、「内装費の費用が高額になるのではないか」と不安に思うのではないでしょうか。また、他の先生方と「工事は、坪〇〇万円だった」というやり取りをすると、その金額に幅があり、実際はいくらくらいなのかと気になる先生もいると存じます。
そこで、本記事では、新規開業とM&Aにおける費用の実際の相場について、詳しく解説します。クリニックの開業を検討している先生方の、ご参考にして頂ければ幸いです。
Ⅱ.新規開業の際の内装代の変動要素
クリニック新規開業の際の、内装費を一言で坪○○円というのは難しいです。
理由としては、物件の前提条件が、それぞれ異なるためです。ここでは、その物件の変動要素について解説します。
1 B工事の有無
B工事(※1)の場合、借主がいくら安価な施工業者を選定していても、オーナーが選ぶB工事の割合が多ければ、そのB工事部分は工事費用が高くなる可能性があります。
一方、C工事(※2)は、安価業者を2~3社コンペティションした上で、業者を決定します。その為、C工事の場合の割合が多ければ多いほど、費用を抑えることが可能です。
(※1)B工事:オーナーが業者を選び、借主(先生)が支払いをする工事のこと
(※2)C工事:借主(先生)が業者を選び、借主(先生)が支払いをする工事
2 造作家具の有無
待合室の椅子や、診察室の机などを設計施工会社に依頼して、オーダーメイド作ってもらう場合には、費用が高くなります。
このような、こだわりのあるオーダーメイドの造作家具がある内装の場合、坪単価に対する費用の捉え方は、通常の場合と異なる場合もありますので、ご注意ください。
3 工事前のテナントの状況
・完全スケルトン
前テナントの内装などが残っておらず、工事が何も入っていないきれいな状態のことです。完全スケルトンの場合、解体費などがかからない一方で、床、天井の工事に加えて、排水や空調まで、先生が一から準備する必要がある為、その分の費用が必要となります。
・前入居者が床と空調までは残したオフィス調で原状回復をした場合
前入居者が、壁などは取り払い、床材や空調は付いている状態にまで現状回復をしていることも比較的あります。すぐにでもオフィスとして使用できる状態の為、内装にこだわりを持たない場合は、簡単な壁の造作を行い営業を開始できることがあります。例えば、訪問診療クリニックなどで、坪10万円~20万円などの安価で開業をしたい場合は、オフィス調に多少手を加えて開業を行うことがあります。
・前の入居者の造作がそのまま残っている(居抜きの場合)
これは、費用が安くも高くもなる要因の1つです。前のテナントが内装を残した居抜き物件であり、そのまま使用する場合は、費用を抑えることが可能です。
一方で、そのままには使用できない状態の場合、解体費用が必要となり、費用は高額になります。
このような形で、入居前の状況や、その状況の活かし方が先生によって変わることを理解したうえでのテナント選びは重要です。
4 夜間工事の指定
ビル側の都合によりますが、スーパーやデパートなどの商業施設でクリニックを開業する場合は、店舗営業終了後の夜間工事の指定が多くなります。
夜間工事の場合、業者に支払う夜間工事代が発生します。
5 広さ
例えば「20坪」と「50坪」で比較をした場合、面積が広くても受付などの造作物やトイレ、空調、排水、X線室などの工事の数はそこまで変わらず、坪単価で見れば50坪のクリニックが安くなります。他の先生との坪単価の比較で数字が合わなくなる要因の一つです。
6 専門的な機械の多さ
レントゲン、CT、MRIなどの専門的な機械を導入する場合、
・放射線が外部に漏れないように、壁に鉛などの特別な施工をする ・機械の重量に耐えられるように、床を厚くする ・熱を逃がすために空調の工事をする ・電気容量を増やす
などの工事を行う必要があります。導入する専門的な機械の数によっても、工事費用は変動します。
7 材質のこだわり
床や壁の材質のこだわりによっても、工事費用は変動します。
例えば、石目の床を希望する場合に、本物の石を使用するか、石目調のシートを使用するかで費用は変わります。
以上、7点を例に挙げました通り、工事費用の相場や、妥当な価格というものは一概には言えない難しさがあります。 「坪単価」という数字に悩むよりも、信頼できるコンサルタントと一緒に医療機関の経験がある設計施工会社、複数社を丁寧にコンペすることが重要です。
Ⅲ.M&Aによるリノベーション開業の勧め
M&Aの場合、通常は前クリニックの造作や内装が引き継がれます。その為、以下のメリットが挙げられます。
1 工事期間は1週間もかからないことが多い
前クリニックの内装をそのまま使用し、看板のみ変更する場合には、1日で開業することが可能です。仮に、内装が古く工事を施す必要がある場合にも、床と壁の貼り替えだけで済む場合が多く、その為、工事期間は1週間程度で終わるケースが多いです。
2 壁、空調、水回りを工事しないのでコストもかからない
新規開業のような、新しく壁を立てたり、水回りや空調の工事には、長い期間と多額の費用を要します。しかし、床や壁の貼り替えだけであれば、数日で終わる為、休診にする必要もありません。
このように、M&Aで立地などの条件が合っている案件の場合、元々の患者さんを失わない期間の間に工事を行うことが大切です。リノベーション開業ならば、内装がきれいになるだけでなく、坪単価も約10万~20万円と、資金を抑えて開業することが可能です。
Ⅳ. 新規とM&Aどちらが良いのか
<新規開業とM&Aを選ぶ際のポイント>
・内装のデザインや動線へのこだわりの有無
・理想のM&A案件がでてくるか
新規とM&Aどちらにするか決める際、理想のクリニックを一から造りたい場合は新規開業になります。内装にこだわりを持たない場合はM&Aの案件も聞いてみるのがお勧めです。但し、M&Aを選択した場合にも、条件に合う案件がでてくるかはわかりません。もしも良い案件に巡り合うことができなければ、新規開業を検討する必要があります。
Ⅴ. おわりに
ここまで、新規開業とM&Aのクリニックの内装にかかる費用について解説しました。
内装や施工費に関して、度々行われる「坪単価がいくらか」という議論は、なかなかそれだけでは判断が難しいものです。今回解説した各項目の条件を踏まえて、少しでも費用が抑えられよう工夫することが大切です。
特に、内装へのこだわりがなければ、M&Aはお勧めです。工事に掛かる時間や費用を抑えることができます。
いずれにしても「M&Aにおいて良い案件が出てくるかどうか」が鍵となります。より良い方法を選択するために、まずは知識の豊富な信頼できるコンサルタントに相談してみてはいかがでしょうか。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任