G.C FACTORY編集部

クリニックM&A

クリニックM&A 賃貸借契約に関する留意点

 

Ⅰ.はじめに

クリニックM&Aをする上で、不動産売買を伴わない場合に締結することになるのが「賃貸借契約書」です。

賃貸借契約書とは、賃貸物件を借りる時にオーナーとの間に締結する契約書のことです。一般的に医療機関の場合、数年で事業廃止をする前提で開業をすることは少なく、自動更新の場合も定期借家契約の場合も、10~20年と比較的長期間での契約を前提とすることが多いです。またそもそも賃貸借契約書の締結ができないと、開業ができなくなり、M&A自体が無くなるため、医療機関が締結する様々な契約の中でも賃貸借契約書は非常に重要な契約と言えます。

 

この賃貸契約書は、M&Aのスキームによってそれぞれ留意点が異なります。本記事では、事業譲渡の場合と法人譲渡の場合における賃貸借契約書の留意点について詳しく解説します。

Ⅱ. 事業譲渡の場合の留意点

事業譲渡では、原則的に売り手の事業廃止の手続きと買い手の開設の手続きを行います。よって賃貸借契約書を含む各種契約は、新たに締結をし直しを行います。以下、項目ごとに留意点を解説します。

 

1 敷金・礼金・仲介手数料

敷金は、売り手がテナントを借りる時にあらかじめオーナーに預ける資金となり、事業譲渡の場合は、譲渡時(つまり売り手の解約時)に売り手に返還されます。その為、継承後に買い手はオーナーに対して、新しく敷金を預けることになります。

また、契約を新たに締結することになりますので、礼金や仲介手数料がかかることが多いです。

 

2 賃料

新しく買い手とオーナーが契約を締結し直すことになるので、必ずしも売り手と同額の賃料になるとは限りません。

例えば、売り手の賃料が50万円だったとしても、買い手が同額の50万円の賃料で契約を締結できるという保証はありません。理由としては、売り手とオーナーに古くからの関係性があれば、その関係性が賃料に反映されている場合があるからです。

売り手とオーナーが懇意にしている関係で賃料が据え置きになっていた場合、入居者が変わるタイミングでオーナーは賃料を改定することができます。その為、新しい契約者である買い手の賃料が売り手とは異なることがあります。

 

3 解約に関する記載の確認

解約に関する記載は、必ず現在の契約書を確認しなければいけません。

例えば、売り手が賃貸を解約した場合「解約手数料は何カ月分の支払いが必要か」の確認が必要になり、定期借家契約など「残期間分の支払いは必要か」を、事前にオーナーに確認する必要があります。

また、内装において原状復帰義務が契約書に記載されている場合には、スケルトンの状態に戻さずに買い手に引き継いで良いかどうかの確認を事前にする必要があります。

 

4 最終譲渡契約書への記載

3の解約に関する記載の確認における内容は、最終譲渡契約書に必ず記載する必要があります。例えば、最終譲渡契約書を締結する前にオーナーに相談したけれど、結果として最終譲渡契約の合意が得られずM&Aが破談になった場合、ただオーナーと解約についての話をしただけになってしまい、無駄足を踏むことになりかねません。

一方で、最終譲渡契約書を締結してから買い手がオーナーに相談に行った場合、オーナーから、賃料が変わることや解約手数料がかかること、内装はスケルトンの状態に戻さないといけないという話をされるケースがあります。このように、最終譲渡契約書と異なる内容に混乱することの無いように、売り手と買い手で事前に細かく取り決めをする必要があります。

具体的には、「無事に契約が締結したら、譲渡実行がされます」または「売り手と全く同じ条件で引き継ぐことができたら譲渡を実行します」など、最終譲渡契約書には賃貸借契約を無事に締結できることを前提条件とする文言を必ず記載します。このような記載をすることで、譲渡実行後のトラブルを防ぐことができます。

Ⅲ. 法人譲渡の場合の留意点

法人譲渡の場合は、原則として出資持分や基金の譲渡と、医療法人の社員総会と理事会を構成するメンバーの交代を行います。法人譲渡の場合、賃貸借契約書を締結しているのは、理事長本人ではなく医療法人です。その為、医療法人の法人譲渡が実行されて、代表の理事長が交代したとしても、法人契約が解約されるわけではありません。
これらの前提を踏まえて、ここでは法人譲渡の場合の留意点について解説します。

 

1 敷金

法人譲渡の敷金は医療法人が拠出しており、敷金は資産として貸借対照表に記載されています。この資産を譲渡資産として譲渡することになります。将来的に退去する時には、この敷金が払い戻されます。

 

2 賃料

法人譲渡の際に代表の理事が交代になる場合にも、賃料が改定されることは基本的にありません。一方で、賃貸契約の更新のタイミングや契約終了のタイミングについては、事前にオーナーに確認しておくといいでしょう。

例えば、最終譲渡契約を締結し、譲渡後すぐに賃料更新のタイミングになってしまうケースがあります。この場合の解決策としては、あらかじめオーナーに代表者が変更になることを伝え、賃料改定の可能性があるかを確認しておきます。

原則としては、法人譲渡の場合は賃料が改定されることは無い為、仮に賃料が改定することになったとしてもM&Aの破談要因にはなりません。

 

3 代表者変更に関する記載の確認

賃貸契約書には、代表者変更に関する記載が多い傾向にあります。法人で物件を借りていて、賃貸契約書に「代表者が変更になる場合には、事前にオーナーに承諾をとること」と記載がある場合には、事前にオーナーに承諾をとる必要があります。

承諾以外にも、通知で知らせる場合もあります。その場合にも、必ず事前にオーナーに通知を行います。いずれにしても、代表者が変更になる場合には事前にオーナーに知らせることが重要です。

 

4 最終譲渡契約書への記載

最終譲渡契約書には、代表者変更に関する記載が必要です。

例えば、代表者が連帯保証人の場合、継承時に連帯保証人を変更する必要があります。その為、代表者変更の記載を確認した上で、最終譲渡契約書への記載に移る必要があります。具体的には、「敷金を譲渡する」という記載や「代表者変更に関する変更事項は、売り手と買い手で情報を共有する」という記載をします。

このように、法人譲渡の場合の最終譲渡契約書には、各種契約が引き継がれなかった場合の保証に関する記載よりも、売り手と買い手がお互いの役割について記載するケースが多いです。

Ⅳ. おわりに

ここまで、クリニックM&Aの賃貸借契約に関する留意点について解説しました。前述の通り、事業譲渡と法人譲渡の場合で留意点が異なってきますので、譲渡をお考えの際には特に注意が必要です。

また、クリニックM&Aを行う過程で考えなければならないことは多くありますが、その中でも賃貸借契約書の引継ぎは非常に重要なポイントです。事前にオーナーの理解と承諾を得ることで、スムーズに継承することができます。

弊社では、賃貸借契約を含むさまざまな工程に対してもご支援させていただきます。各種契約書についてのご相談も受け付けております。クリニックM&Aをお考えの方はぜひお気軽にご相談ください。

 

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著者:株式会社G.C FACTORY 広報部

日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。

 

 

 

 

監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任