クリニックM&Aの基礎
クリニックM&Aの「失敗事例」から学ぶ成功のポイントとは?
Ⅰ.はじめに
近年、クリニックのM&Aが増加しておりますが、知識がないままM&Aを進めた結果、取り返しのつかないことになるケースも見受けられます。今回は、クリニックM&Aの2つの事例を紹介し、失敗を防ぐポイントをお伝えします。売り手側・買い手側それぞれの事例について、ぜひ参考にしてみてください。
Ⅱ.クリニックM&Aの2つの失敗事例
まず、クリニックM&A事例の失敗のサンプルを2つ紹介します。(実際に支援の中で起きた失敗ではありませんのでご安心ください。)
≪売り手側のM&A失敗事例≫
Aクリニックの院長は、70歳を迎えたことからそろそろ勇退したいと考え始めました。銀行のすすめで参加したセミナーでM&Aという選択肢を知り、後継者候補を探し始めます。幸いにも、後輩に開業したいという医師がおり、トントン拍子で話が進みます。
お互い旧知の仲なので、仲介に専門家を入れるまでもないと判断。直接にやり取りをしながらM&Aを進めました。しかし、引継ぎ対象の資産や負債(売り手の先生が診療した診療報酬の未収金や生命保険の解約返戻金など)やスケジュール認識の違いなどが生じてしまうことに。後継者候補の医師は「開業時期や予算を大きくずらすのは現実的でない」と主張し、結果、M&Aは水の泡となってしまいました。
医療法人は、個人事業のように簡単に廃業することができず、法人の解散の為にも、都道府県、保健所、法務局など大きな手間がかかります。結果的にAクリニックの院長は、行政との調整を続けながら、廃業時期を延ばすことになりました。また、医療法人に残っていたお金は、内装の現状回復費用や、医療機器等の処分費用、スタッフの退職金、廃業準備中の賃料などでほとんどなくなってしまうことが判明。M&Aの失敗のみならず、勇退後の生活への不安も生まれる結果となってしまいました。
≪買い手側のM&A失敗事例≫
経営が順調なBクリニックの理事長は、分院展開の方法としてM&Aを検討し始めました。候補として顧問税理士のクライアントでもある医療法人を紹介されました。顧問税理士にはM&Aをサポートした経験がありませんでしたが、信頼していた顧問税理士のクライアントであるから簿外債務などは無いと安心し、結果譲渡が成約しました。
しかし、買収監査(デューデリジェンス)をきちんと行わなかった結果、譲渡後、過去の診療に問題があったことが発覚。それを皮切りに訴訟を起こされ、対応に追われる羽目になりました。また、噂が広がり患者数も減少し、利益は当初の事業計画を大幅に下回る赤字となる始末。
顧問税理士に不満を伝えましたが、「専門は税務手続きであり、法務に関して責任は持てない」の一点張り。結局、本院の利益を分院に回してなんとか経営する状況が数年間にわたって続きました。
Ⅲ.クリニックのM&Aには専門知識と経験が不可欠
M&Aを考え始めた時、できれば余計な費用は割きたくない誰しもが考えると思われます。ただ、医療業界M&Aは一般企業と異なる面が多々あります。医療法の知識、行政への届出などはやはり経験が必要です。また医療法人なら「持分あり/なし」のいずれかによって、スキームそのものが変わってきます。すべての情報を自分でゼロから学び、必要な専門家を手配してマネジメントし、M&Aを遂行するのは難しいといえるでしょう。このような点を踏まえ、クリニックのM&Aでは、専門家であるM&A仲介会社に依頼することをおすすめします。
Ⅳ.クリニックM&Aを成功させるポイント
クリニックのM&Aを成功させようと思ったら、まずはクリニックM&Aの実績を持つ仲介会社を選ぶことが重要です。過去のM&A事例について質問し、医療業界の事情に精通しているか、医療法や行政手続きの知識があるかどうかをチェックしましょう。
M&Aの目的、譲れない条件を自分の中で明確化しておくことも重要です。売り手・買い手の候補先選びでは、ついあれもこれも条件をつけたくなりがちです。しかし、すべての希望が叶う候補先が出てくるのを待っていては、年月だけが過ぎてしまうこともあり得ます。条件を洗い出した上で、優先順位をつけて候補先選びをすることが大切です。
弊社では、M&Aのご相談について無料で承っております。クリニックM&Aに精通した専門家が誠実に対応させていただきますので、お気軽にご相談ください。
執筆者:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任