行政手続き
スキーム別医療機関M&Aにかかわる行政手続き
Ⅰ.はじめに
医療機関のM&Aでは、スキーム毎に様々な許認可が必要となり、それに伴って様々な行政手続きが発生します。その為、M&Aのスケジュールを組む際には、行政手続きの流れを把握しておくことが大切です。また、医療機関のM&Aにおける行政手続きの分担についても、売り手と買い手であらかじめ決めておくことをお勧めします。
本記事では、医療機関のM&Aに関わる行政手続きについてスキーム別に解説します。これから医療機関M&Aを検討している多くの先生方のご参考にしていただければ幸いです。
Ⅱ.医療法人の譲渡の場合
医療法人の譲渡では、医療法人の出資持分や基金の譲渡を行うと同時に、医療法人の社員・理事の入れ替えを行うことが一般的です。ここでは、医療法人の譲渡に伴って生じる、それぞれの手続きについて解説します。
1 役員変更
医療法人の役員変更では、最高意思決定機関である社員総会を開いて、理事・監事の入れ替えを行います。
理事・監事の変更においては、変更が生じてから10日以内に、買い手側では役員変更届、社員総会時の議事録、新理事の就任届、履歴書、印鑑証明書などを提出し、売り手側では、退任理事の退任届を各都道府県に提出する必要があります。
2 定款変更
医療法人の譲渡を行った際に、医療法人の定款を変更が生じる場合には、定款変更手続きが必要です。定款変更が必要になる例としては、「名称変更」、「決算月の変更」などがあります。変更が生じる「前」に、定款変更の申請を都道府県に提出して、認可を得なくてはなりません。認可までは手続き内容に寄りますが、おおよそ2~3か月要することが多いです。
3 法務局への登記
譲渡に伴い、登記事項の変更が生じた場合には、法務局への手続きが必要になります。法人譲渡では、医療法人の名称変更と理事長の変更の際に登記を行うことが多いです。登記は、定款変更の認可後に手続きを行い、10日間ほど要することが多いです。
4 保健所への開設許可事項変更届
法人譲渡の場合、「院長の変更」、「クリニックの名称変更」、「休診日、診察時間の変更」などが生じた際に、保健所で変更手続きが必要です。この場合、変更事項が生じてから10日以内を期限にしている保健所が多いです。
5 厚生局への開設許可事項変更届
保健所と同じく、開設事項に変更が生じた場合は、各地方の厚生局にも開設許可事項変更届を提出します。厚生局への手続きは、保健所の手続きが完了後に行います。
Ⅲ. 事業譲渡(買い手が個人の場合)
ここでは、事業譲渡において買い手が個人の場合に、売り手のクリニックを廃止し、買い手のクリニックを新設する際の行政手続きについて解説します。買い手が個人医師の場合は、医療法人の場合と異なり都道府県への手続きが不要となり、簡単になります。
1 保健所への廃止届、開設届
保健所に、売り手の廃止届と買い手の開設届を提出します。事業譲渡の場合は新規と同じ扱いになるため、買い手は保健所の立ち入り検査が発生します。また、X線機器を導入する場合は、線量測定などの結果とともに、X線備え付け届の提出が必要になります。
2 厚生局への廃止届、開設届
売り手の廃止届と買い手の開設届を提出します。通常、新規開設の場合は各都道府県の期日までに提出することで、翌月から保険診療を開始することができます。一方でM&Aの場合は、継承後(開業後)すぐに保険診療を開始する必要があるので、開設届を出す際に「遡及申請」をすることで承認後すぐに保険診療をすることが可能となります。
Ⅳ. 事業譲渡(買い手が医療法人の場合)
事業譲渡において買い手が医療法人の場合には、売り手のクリニックの廃止届と買い手のクリニックの新規開設届に加えて、医療法人の手続きとして、都道府県や法務局への手続きが必要になります。その手続きについて解説します。
1 定款変更
買い手の医療法人が分院を設立するにあたって、定款変更を都道府県に提出します。
分院設立以外にも、名称変更や決算月の変更などが生じる場合には、定款変更をする必要があります。分院設立の定款変更は、定款変更手続きの中でも時間がかかる手続きなので3か月ほどの期間は見込んでおく必要があります。
2 役員変更
買い手が分院を設立し、新しい院長が就任する場合には、その新しい院長を理事に追加しなければならないという決まりがある為、役員変更の手続きが生じます。
3 登記(分院の開設)
買い手が医療法人の場合、分院開設の登記を行う必要があります。
4 保健所への廃止届、開設許可申請
保健所には、売り手の廃止届の他に、買い手医療法人にて開設許可申請の手続きが必要です。一般的に開設許可申請をして2週間ほどで開設許可がおりて、その後に開設届を提出します。
5 厚生局への廃止届、開設届
売り手の廃止届と買い手の開設届を提出します。個人の場合と同様に遡及申請を行います。
Ⅴ. おわりに
ここまで、医療機関M&Aにおける、スキームごとの行政手続きの流れを解説しました。
都道府県であれば各都道府県、保健所であれば各自治体によって、手続きの流れが若干異なる場合があります。その為、入念な事前確認をするとともに、M&Aの行政手続きを理解している仲介者及び税理士や行政書士など、行政手続きに精通している専門家と相談しながら進めていくことをお勧めします。
弊社では、医療機関専門のM&Aコンサルタントや医療機関専門の行政書士法人を有しておりますので、お困りの際は是非お気軽にご相談ください。
医療機関M&Aにかかわる行政手続きに関しては、下記コラムもご参考ください。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任