G.C FACTORY編集部

クリニックM&A 新規開業、承継開業

医療機関М&Aにおけるトップ面談・内見

 

 

Ⅰ.はじめに

医療機関М&Aにおけるトップ面談とは、売り手側の院長先生(以下「売り手」)と買い手側の先生(以下「買い手」)が、初めて直接顔を合わせて話し合いを行う場のことです。概要書に記載されている数字や写真などの情報だけでは知ることのできない、情報などについて質問をし、相互理解を深めることが目的です。

 

M&Aの流れとして、まず案件に関して詳細に記載している企業概要書や、M&A仲介のコンサルタントを介して質疑応答を行い、その後に案件について検討していただきます。

その次のステップが、「トップ面談・内見」です。

 

 

 

出典:https://gcf.co.jp/service/#flow

 

 

トップ面談は、不動産の内見をイメージするとわかりやすいです。各種WEBサイトで気になった不動産が見つかったら、仲介会社を通して現地に足を運ぶと思います。

それに当たるのが、М&Aにおけるトップ面談です。トップ面談では、不動産同様に主に施設の内見を行い、それに加えて、売り手へのインタビュー、質疑応答を行います。

 

本記事では、トップ面談・内見を行う際にどのようなことをすれば良いのか、何に注意したら良いのかを詳しく解説します。

 

Ⅱ. トップ面談時の服装やマナー

まず、トップ面談時の服装についてです。基本的にはセミフォーマル、スーツが推奨されています。弊社の実績でいうと、スーツまで着てくる先生の割合は、半分くらいです。

トップ面談は、売り手の貴重なお時間を頂戴していますので、Tシャツや短パン、サンダル等のカジュアルな服装は避けましょう。

 

つぎに、菓子折りなどの持参についてです。弊社の実績でいうと持参する先生は6~7割ほどの割合でして、必須と言うわけではありません。

 

服装もですが、事前に仲介会社に「今までにトップ面談や内見が入った他の候補者がいるか」を確認してその際の様子や温度感を確認しても良いです。

他の候補も内見をしていた場合、その時の雰囲気、双方の服装などを事前に把握しておくことで、スムーズに準備ができます。

 

Ⅲ. トップ面談・内見の当日の流れ

①待ち合わせ

多くはM&A仲介者と入口前で待ち合わせます。稀にですが、事前に売り手と仲介者が打ち合わせをしていて、買い手は「到着次第、クリニックに入ってきてください」と言われることがあります。この時に注意すべきは、スタッフ様がいらっしゃる場合の名乗り方です。トップ面談の多くは休診日や診察後に行われますが、たまに診療後にスタッフ様が残っている日に実施をする場合もあります。この場合は、事前にスタッフ様が継承について知っているかどうかが重要になります。知らない場合は内見にきたことなどは悟られない名乗り方をする方が無難です。「院長とお約束をいただいています○○です」という形が良いです。

 

②挨拶

名刺交換をします。買い手に寄っては名刺をお持ちでは無い先生もいますが、気になさらず、所属とお名前をお伝えいただき売り手の名刺をいただいてください。

 

③内見

挨拶が終わったら、まずは内見をすることが多いです。売り手に受付から順にご案内をいただきます。この時も気になったことは随時ご質問をいただいて結構です。

 

④トップ面談

内見が終わったら、詳細の質疑応答をするトップ面談です。買い手⇒売り手への質問だけでなく、売り手⇒買い手への質問も行います。

 

この①~④の流れで1時間~1.5時間で行うことが一般的です。

 

Ⅳ. トップ面談で質問すること

トップ面談では、施設の内見と売り手へのインタビューを行います。

限られた時間を有意義な時間にするために、質問事項や疑問点があれば事前に準備しておくことが大切です。

 

前提として、概要書や仲介会社とのやり取りではわからなかったことはこの場でお聞きください。というのも、トップ面談前に共有される案件概要書のボリュームは、案件毎や仲介者がどれくらい情報を把握しているか、売り手と仲介者がどれだけ深く話をしているかによって変わってきます。継承をするかの意思決定に必要なことの確認の場として、トップ面談がありますので有効にご活用ください。

 

以下、質問をすると良い例として6項目をご紹介します。

 

①患者さんについて

患者さんについての情報は、概要書に載っている数字では把握することのできないことが多く、直接お聞きするのがお勧めです。具体的には、以下の通りです。

・どれくらいの年齢の患者さんが多いか

・どのような地域からの来院が多いか

・来院される患者さんの性格的特性

・来院が多い時間帯

など

 

②疾患や治療方針について

概要書では、各診療科の内訳(例:内科○割、糖尿病内科○割)までの情報は把握できることが多いですが、より具体的な部分について質問をします。

例えば、以下のような内容です。

 

・糖尿病内科でインスリンの処方を行っている人はどれくらいいるか

・内科は発熱などの方が多いのか、慢性の方が多いのか

・各医療機器の使用頻度はそれぞれどれくらいか

・予約時に断る患者さんはどのような疾患か

・産業医や学校医はどれくらい行っているのか

 

③スタッフのこと

従業員を継承する場合、スムーズに対応ができるように以下のことを確認しておきます。

 

・性格や能力(例えば、医療事務の方は、どれくらい業務ができるか、レセプト請求できる人は何人いるのか?など)

・各職種の役割

・シフトの決め方

・有給の取り方など

・売り手の院長の親族などがいるか、いる場合の役割

など

 

④オペレーションについて

オペレーションについても詳細に確認しておきましょう。

 

・予約の運用について

・患者さんの呼び込みはどのようにしているのか

・カルテの入力担当について(クラークが行うのか、医師が行うのか)

・レセプト請求の流れについて

・お金の締めの方法、給与の計算、月次の会計の締めなど

 

また、上記の業務はそれぞれどのように分担しているのかについても確認します。(事務長がやっているのか、奥さんがやっているのか、全部院長がやっているのかなど)

これは、継承後にスタッフが足りなくなる等のトラブルが起きないよう、確認しておきたいポイントです。

 

⑤制度、ルールについて

従業員を引き継ぐ際、規定や概要書には記載はないけれど、先生が独自につくっているルールが存在する場合があります。

引き継いだ際に「前の院長先生はこうだった」など従業員との認識の違いが生まれないように以下の点についても確認しましょう。

 

・勤怠管理に関して(原則難しいですが、昔からの名残で残業は15分単位としているなど)

・有給取得のルール

・退職金支払いの実績

・その他の制度やルール

 

⑥連携医療機関、競合医療機関について

近隣医療機関や医師会との関係も詳細は概要書などでは確認できないので、お聞きすると良い内容になります。

 

・深く連携している紹介先や逆紹介先

・売り手の院長先生が認識している競合医療機関

・深く連携している調剤薬局

・医師会との関係、業務内容など

 

Ⅴ. トップ面談で聞いてはいけないこと

あくまで、トップ面談は買い手と売り手の相互理解を深める場です。お互いの信頼関係構築のためにも、以下の質問は避けた方が無難です。

 

①条件交渉

トップ面談の場で、具体的な譲渡価格の交渉は出来れば避けた方が良いです。

例えば、譲渡価格は5000万円と提示をされているのに、4000万円にならないかと交渉することは、相手に悪印象を与えたり、トップ面談の雰囲気を壊しかねません。

譲渡価格の交渉を希望する場合は、トップ面談後に、意向表明書にてその他の条件と整理をして提出することが望ましいです。

 

②事業に関係ない質問

例えば、売り手の院長の奥さんがクリニック運営に関わっているかを聞くことは問題ありませんが、奥さんがクリニック事業に関わっていないとわかった上で、「仕事は何をしているのか」などあまり事業と関係のない質問をするのは、印象が悪くなってしまう可能性があります。

また、お子さんや跡継ぎの話題に関しても注意が必要です。

譲渡理由を聞く流れで、売り手からそういった話題になる場合がありますが、買い手側から売り手に対して「お子様は医学部ですか?」などと聞くことは注意をされた方が無難です。

あくまでも譲渡対象の事業に関する質問をする場と認識をされることが重要です。

Ⅵ. 内見時に注意してみること

つぎに、内見時に確認すべき点についてです。

 

①施設が古すぎないか、故障していないか

機械や内装を見て、概要書に載っているホームページの写真と相違がないか、引き継ぎ後に修繕工事や修復が必要になるかどうかを注視します。

場合によっては、「古い粗大ごみは買い手側で処分してください」と言われて、処分代がかかることがあります。

 

内見時に施設の様子を確認しておくことで「この機械は不要だ」と思った場合、意向表明書を提出する際に、譲渡条件の中で「大きなものの処分代はご負担ください」などと事前に記載することができます。

 

②周辺環境

概要書だけでは見えないところとして、

・隣のテナントの様子

・歩いている人の数や様子

・駐車場や駐輪場

があります。ほかにも「駅からの道はわかりやすいか」「薬局は近くにあるか」などトップ面談の前後の時間に周辺を歩いてみて、実際の周辺環境を把握しておきましょう。

 

③競合医療機関

近隣の競合医療機関についても把握しておきます。

実際に中に入ることはできないので、患者さんがどれくらいいるのかなど、迷惑にならない範囲で確認しておきます。

 

④狭すぎないか

自身のやりたい医療ができる広さがあるかを確認します。

具体的には、継承後に買いたい機械がある場合、それを置くスペースが確保できるか、歯科や耳鼻科でいうユニット(椅子)を増設する余地があるか、また待合室の広さは十分か、などです。

 

⑤カルテの保管など

売り手が高齢で引退を検討している場合、電子カルテではなく紙カルテを使用していることが多いです。カルテの保管場所がクリニック内ではなく、倉庫やマンションを借りている先生もいるため、「それがどこにあるのか」「賃料はどれくらいか」を確認する必要があります。

 

また、カルテの保存期間は5年と義務付けられていますが、何年分まで保管されているのかを確認しておくことで、5年以降のものは売り手で処分してもらうように事前に対応することができます。

Ⅶ. 終わりに

トップ面談は、基本的に1回のみの実施で、1時間程度で行われることがほとんどです。ただ、見に行くというよりも、ある程度聞く内容と見る内容を絞った上で、限られた時間を濃い時間にすることが大切です。

なにかわからないことがあれば、仲介会社に事前に聞いておきましょう。

トップ面談後、つぎにクリニックに足を運ぶのは、基本同意契約書の締結をする時になることが多いです。トップ面談という貴重な時間を、より有意義な時間にするために、しっかりと確認点を絞ったうえでトップ面談にのぞみましょう。

 

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著者:株式会社G.C FACTORY 広報部

日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。

 

 

 

 

監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任