クリニックM&Aの基礎
医療機関を0円でM&Aをするメリット
Ⅰ.はじめに
昨今、後継者不在により医療機関M&Aは増加傾向にあります。M&Aでは、案件ごとの算定や売り手の希望によって譲渡対価が決まりますが、最近では医療機関を0円で譲渡する案件も増えています。弊社の実績としましても、買収価格0円のM&A案件は、1年間でも複数件の取扱いがあります。
本記事では、売り手・買い手それぞれにおいて、0円で医療機関をM&Aするメリットと、どのような時に0円で売却されるのかについて具体的に解説します。
Ⅱ.どのような案件が0円で売却に出るか
次からは、譲渡対価が0円になりやすい案件について4つの例を紹介します。
1 急ぎの案件
例えば、「3カ月後には必ず売却しないといけない」というような、譲渡対価を得ることよりも、スタッフや患者さんの為に、継承してくれる買い手を急ぎで探している案件の場合に、譲渡対価が0円になりやすいです。
具体的には、売り手の先生が病気になってしまった場合や10年単位の定期借家契約の更新のタイミングが迫っている場合、売り手の次の人生キャリアが既に決まっている場合などが挙げられます。
2 固定資産が古く、会計上の価値が無い案件
古くからあるクリニックの場合、内装や医療機器などが古くなり、減価償却が進んできていて会計上の価値が付かないことがあります。
このような案件の場合で、なかなか買い手が見つからない場合、売れずに処分費用を払うくらいならばと考えて、譲渡対価が0円になるケースがあります。
3 患者数が減ってきている案件
患者数が減ってきており、営業権の価値がつかない案件の場合にも、譲渡価格が0円になることがあります。
M&Aは譲渡する資産と営業権で譲渡価格の算定をする為、どちらかの価値が非常に低い場合には買い手が決まらないことがあります。このような場合には、0円での売却を選択することがあります。
4 地方都市の場合
地方での医療機関M&Aの場合は、開業する医師の数が少なく継承をしたいと考えている買い手を見つけることが困難なケースがあります。
この場合、資産価値や営業権のある医療機関だとしても、需給バランスの関係から0円での売却を考慮せざるを得なくなります。
Ⅲ. 0円M&Aをするメリット(売り手)
ここからは、売り手における0円でもM&Aをするメリットについて解説します。
1 スタッフの雇用が守られる
まず、0円でも継承することにはスタッフの雇用が守れるというメリットがあります。院長が引退してクリニックを廃止することになると、スタッフの雇用が守れなくなってしまいます。
廃止ではなく0円でも譲渡をすることで、スタッフも継続して勤務することが可能になります。
2 患者さんの診療の継続
前述の通り、スタッフの雇用が守られてクリニックが継承されれば、地域医療の継続も可能です。廃止を選択した場合、患者さんに紹介状を出して、他のクリニックに引き継ぐことになります。その際はその間、新患は受け入れられないので赤字がかさむ可能性もあります。継承の場合はその必要が無くなり、今まで診療してきた患者さんを継続して診ていくことが出来ます。
3 廃止には手間と費用がかかる
廃止をする場合、ただ廃止をすれば良い訳ではありません。大きいものでは、開業の際に事業用の内装にしている場合、オーナーに返す時にはスケルトン(物件の床や天井、壁などを取り払い建物の構造が分かる状態に戻すこと)の状態にして明け渡す必要があります。
その他にも、廃止をするには、
(1)医療機器など精密機械を処分する専門業者の手配と費用
(2)約5~10年分のカルテを含む機密文書の処分代
(3)廃止に伴う準備や手続き期間中の家賃や人件費
(4) 廃止に伴う行政手続き費用
などが必要になります。
また、廃止する最後の期間には、新しい患者さんを受けることは出来ません。新しい患者さんを受け入れずに、既存の患者さんには紹介状を出して他の医療機関に引き継ぐことになる為、売上が下がり赤字が膨らむ可能性もあります。
特に建物を戸建てで所有しているような場合には、高額な費用がかかるので、廃止の費用を支払うよりも0円M&Aを選択されるケースが多いです。
4 自身も非常勤医師など負担を下げて継続ができる
0円M&Aによってクリニックが継続されることになり、スタッフの雇用も守られ、患者さんの診療も継続出来るのであれば、売り手の先生が完全引退する必要はなくなります。 例えば、週1回や2回の非常勤医師としての勤務で負担を軽くしながら、自分の職場で継続して診療することが可能です。
※【医院継承をすると医師としても引退しないといけないのか】のコラムも是非ご参考ください。
Ⅳ. 0円M&Aをするメリット(買い手)
1 大幅に開業費を抑えられる
買収したクリニックが古い資産だとしても、買収前まで診療をしていたクリニックなので、クリニックとして使用可能です。
一般的に開業にかかる資金はテナントでも5000万円を超えることも多く、銀行からの融資を必要とします。しかし、0円M&Aの場合には初期費用でかかる内装や医療機器の費用がほとんど掛かりません。その為、開業時に借り入れる金額も通常より大きく少なくなります。
2 初月から一定の患者さんが見込める
仮に、0円のクリニックの患者数が営業権の付かない程度(例えば1日20名ほどの患者数)だとしても、新規開業をした場合、患者さんが0人からのスタートとなり、広告宣伝費をかけて集患する必要があります。そして、それでも初月は1日に3名など患者数が少ないケースが多いです。継承であれば、例え0円譲渡のクリニックであっても安定したスタートを切ることができる可能性が高いです。
3 リノベーションをすることで低コストで綺麗にできる
0円で継承をするクリニックのほとんどにおいて内装が古いのが欠点になりますが、継承した場合には壁を立てたり、配水を引いたりとした大掛かりな工事は不要となります。 その為、例えば床材や壁材の変更、古い家具はホームセンターや家具量販店で新しい家具に新調するなど、少し手を加えるだけで見違えるように綺麗になります。
そしてこういったリノベーションは、スケルトンの状態から作り上げるよりも遥かに安価、且つ短期間で済みます。通常、テナント(例えば40坪ほど)の内装工事は40~50日ほどの期間がかかりますが、壁や床の張り替えだけであれば1日~2日で完成します。0円譲渡からのリノベーション開業は大変お勧めの手法です。
4 最初から法人での開業が可能
0円M&Aの案件が医療法人だった場合、最初から医療法人での開業が可能になります。新規で開業する場合には、まず個人開業をして実績を積み、都道府県に申請を出してから医療法人になるという段階を踏む必要がありますが、医療法人の案件を継承することで、これらの手続き無しに医療法人として開業ができます。
例えば、共同創業者と一緒に医療機関を開業した後で医療法人を設立したいという場合には、最初から医療法人を継承する方法もおすすめです。
また、医療法人の場合は、継承するまでが赤字なことがあります。この赤字は「繰越欠損金」として残り、継承後に利益と相殺することができる可能性があります。これは顧問税理士と相談してみて引き継げるならば、税的なメリットと言えます。
Ⅴ. おわりに
ここまで、医療機関を0円でM&Aするメリットについて解説しました。0円M&Aは、売り手からすると「クリニックの廃止」というマイナス面がなくなり、買い手からすると値段がつかない程度の営業権や古い資産だとしても、継承してリノベーションをする「リニューアルプラン」をコンサルタントと相談出来るならば、0円案件もとても魅力的と言えます。
弊社では、このような0円譲渡やリニューアル開業に関しても、多くの事例があります。是非お気軽にご相談ください。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任