G.C FACTORY編集部

クリニックM&A

医療機関M&Aの基礎②「ノンネームシートとは?記載事項と作成時の留意点」

 

 

Ⅰ.はじめに

M&A仲介会社との初回面談が終わったら、M&A仲介コンサルタントはノンネームシートと言われる、「具体的にどの医療機関かわからないようにしながら、案件特徴を伝えるシート」を活用して買い手探しを始めます。本記事では、そのノンネームシートの記載事項から、作成時に売り手が留意しておきたい点について解説します。

 

Ⅱ. ノンネームシートとは

医療機関を売却する際に、M&A仲介会社は様々な方面から買い手を探すことになります。売り手の情報を出す際に、例えば不動産のように「渋谷の〇〇クリニック」と名称や住所を出して買い手を探してしまうと、売却情報が外部から広がり、そのクリニックに通っている患者さんを不安にさせてしまったり、働いているスタッフに焦りや不安を与えてしまいます。

しかし、ある程度情報を開示しないと買い手を探すことは出来ません。その為、誰が見てもどこのクリニックか分からないが、診療科目や売上などのある程度の情報は分かるようにまとめたものがノンネームシートです。

 

 

Ⅲ. ノンネームシートに記載する内容及び、作成の留意点

ここからは、弊社でノンネームシートを作成する際に記載する項目を紹介し、その項目毎の留意点について解説をします。

 

1.所在地

所在地は一般的には、都道府県単位で記載をします。または横浜市、名古屋市などの政令指定都市の場合は市単位で記載をしています。会社に寄っては市町村単位まで記載している会社もありますが、あまり細かく書き過ぎないことが重要と考えます。

例えば、【○○県○○市 耳鼻咽喉科 医療法人 戸建て開業 50坪】という感じで作成した場合、一見するとノンネームシートに見えますが、実際には、その○○県〇〇市にある耳鼻咽喉科の中で条件が当てはまるクリニックが1~2件しか無かった、ということもあります。これではノンネームシートの役割を果たせていません。よって、特定できないところまで範囲を広げて設定し記載する必要があります。

 

その一方、ある程度範囲を絞らないと、問い合わせ後ネームクリアの段階に入り、情報を開示しても、買い手候補先が想定していたエリアと違い辞退になる場合があります。そうなると、詳細情報が出回ってしまうので難しいところです。売り手は、所在地について「ある程度エリアを絞りながらも特定はされない情報にする」という部分をコンサルタントと相談して決めていく必要があります。

 

診療科目などの他の情報に寄っても所在地の記載範囲は変わります。例えば、内科や歯科など比較的クリニックの数の多い診療科目であれば、23区内東側、埼玉県南部、千葉県北部などエリアを絞って書いても特定には至らないことが多いです。

逆に病院などで【精神科・210床】など、該当する医療機関が少ない場合は、「一都三県」までエリアを広げて書くこともあります。

 

2. 診療科目(診療内容)

診療科目は標榜している科目数が多い場合に、3つ程度まで情報を絞る場合があります。

例えば、勤務医師が多かったりして、診療科目が「内科、循環器内科、糖尿病内科、整形外科、小児科」などと多い場合、全ての診療科目を記載してしまうと、調べた際にクリニック情報が分かってしまう恐れがあります。特定できないように「内科・循環器内科・整形外科など」と記載する等、ある程度絞った情報を記載しましょう。

 

また、診療科目以外にも、例えば訪問診療やオンライン診療の有無や、内視鏡検査などの専門性が問われる検査が多かったりする場合は、的外れなネームクリアを防ぐためにも、ノンネームシートに記載をすることが望ましいです。

 

3. 病床、坪数、駐車場台数などの数字

病床数がある場合は、記載をします。ただ詳細に記載せず、四捨五入して記載します。 例えば、239床だった場合にそのままの情報を詳細に書くと、病院の情報が絞られてしまいます。この場合は四捨五入して約240床と記載しましょう。これは建物の坪数や、駐車場の台数なども同様です。

 

4. 売上、利益

直近の実績を記載します。アピールになるような場合は3期分記載したりすることもあります。また、利益は、営業利益+役員報酬+減価償却費+接待交際費のような形の修正後利益を記載することが多いです。

これらの経営数字もノンネームシートの段階では、四捨五入をして記載することが多いです。

 

5. 開設主体

基本的には、個人または法人で記載します。但し、医療法人の場合は出資持分ありか基金拠出型なのかでスキームにも違いが出てくる為、「出資持分のある医療法人」又は「基金拠出型の医療法人」などの情報までは記載するケースもあります。

 

6. 譲渡対象

医療法人の法人ごとなのか、事業だけの譲渡なのかなどについて記載をします。またその他にも不動産や医療機器の譲渡は含むのかなどについても記載をします。

 

7. 譲渡対価

売り手とコンサルの間で譲渡対価が決まっていれば記載します。決まっていなければ「応相談」と記載をすることも可能です。

 

8. 譲渡希望時期

譲渡希望時期なので、譲渡契約書の締結の時期では無くて、譲渡実行の希望時期を記載します。売り手とコンサルの間で決まっていれば記載します。(決まっていなければ応相談で可)

 

9. その他

その他にも、買い手にアピールしたい点があれば記載しましょう。例えば、「院長が継承後も勤務できる」「駅から非常に近い」「マーケティングはしていないが患者数が多い」など、買い手に魅力を感じてもらえるようなポイントを記載します。

 

 

Ⅳ. 終わりに

ノンネームシートはどの程度の情報を記載するかが非常に重要なポイントです。

ノンネームシートの記載する内容は薄すぎても問い合わせが入りにくく、詳細に記載すると特定されやすくなってしまいます。記載内容については、魅力的な内容になるようコンサルタントとしっかり相談し決めていくことが大切です。

また、コンサルタントと信頼関係が出来上がっていたとしても、後々トラブルが生じないようにノンネームシートの記載内容は、必ず売り手側が確認してから開示しましょう。

弊社では、M&Aにおける一連の工程に対して、最後まで誠意をもって支援しております。これから譲渡をお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

 

 

著者:株式会社G.C FACTORY 広報部

日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。

 

 

 

 

監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任