診療科目別
整形外科のM&A動向とは?成功させるためのコツを徹底解説
目次
I. はじめに
昨今、高齢化社会の進展に伴い、整形外科の需要は高まっています。しかし、近年の物価高の影響で、内装が広く、機械が豊富な整形外科の開業には大きな投資がかかるようになっています。また他の診療科目よりもPT、OTや放射線技師などの専門スタッフの確保が大変な診療科目でもあります。
そういったこともあり、整形外科の開業を検討する際に、M&Aを検討する方も増えてきております。本記事では、整形外科のM&A動向を解説し、成功に導くためのコツについて詳しくご紹介します。
II. 整形外科M&Aの売り手側のメリット
まず、整形外科M&Aの売り手側のメリットを3つご紹介します。
・廃止と比較して、内装や機器の処分費がかからない
整形外科は、一般的に他の診療科目に比べて、クリニックの面積が広くなることが多いです。そのため、廃止をする場合には内装の解体に多額の費用がかかりますし、医療機器(レントゲン、CT、MRI、運動器リハビリテーション機器など)は、クリニックが廃止になる場合に処分しなければいけません。他の診療科目でも機械の処分費用はかかりますが、整形外科は機械の種類が多く、重量もある機械が多い為他の科目よりもより費用がかかる場合が多いです。そのため、処分せずに買い手に引き継ぐことで、M&Aとしての譲渡価格が高くつかない場合でも売り手側にとってはメリットがあります。
・スタッフの雇用維持
整形外科は、事務や看護師だけではなく、理学療法士や作業療法士、放射線技師、リハビリの補助スタッフなど、多くの専門スタッフで構成されています。これらのスタッフに事業の廃止を告げて解雇するよりも、M&Aによって多くのスタッフの雇用を維持ができることは、売り手側にとってメリットとなるでしょう。
・患者さんの引き継ぎ
整形外科の場合、運動器リハビリテーションなどの患者さんもいる場合に、1クリニックあたりの患者数が多くなることがあります。クリニックを廃止する場合は、これらの患者さんに対して説明をして、他院に紹介状を作成する負担が生じますが、継承の場合は患者さんも引き継ぐことができ、負担を軽減できますし、患者さんにも安心いただけるでしょう。
III. 整形外科M&Aの買い手側のメリット
次に、整形外科M&Aの買い手側のメリットを3つご紹介します。
・投資が大きくなる整形外科の開業リスクの低減
昨今、建築コストや医療機器の価格高騰により整形外科の開業にかかる費用は増大しており、数億円に及ぶことも多くなっています。継承開業ならば、内装や医療機器などを引き継げるため、初期費用を抑えることができます。
機械にこだわりがある場合でも、その機械だけを新規で購入したり、内装に関しても、患者さんが使用するスペースだけリノベーションするなどの対応をとることで、開業時の負担を軽減できるでしょう。
・専門スタッフの雇用
整形外科の新規開業においては、理学療法士、作業療法士、放射線技師などの専門スタッフを採用する必要があります。このとき、専門スタッフの採用が難航する場合もあります。難航した場合は、紹介会社に年収の20~30%を支払って採用するケースも多いです。一方、継承開業の場合は、専門スタッフの雇用も引き継ぐことができるため、採用の負担が軽減されます。
・患者さんの引き継ぎ
新規開業の場合、患者さんを増やすまでに長い期間が必要となります。一方、継承開業では既存の患者さんを引き継ぐことができるため、開業初期から安定した患者基盤を持つことができます。
IV. 整形外科のM&Aで売り手、買い手が考慮すべきポイント
ここからは、整形外科のM&Aにおいて考慮すべきポイントについて解説をします。
・立地
整形外科の場合、タクシーや車を駐車しやすい立地であるかは重要なポイントです。患者さんの中には、松葉づえや車いすを使用している方もいるため、交通の利便性や、薬局と駐車場がクリニックの近くにあることを考慮しましょう。
・内装
運動器リハビリテーションの施設基準には、機能訓練室の面積が45平方メートル以上であることが定められています。
そのため、もしも運動器リハビリテーションを新規で検討している場合には、内装が施設基準を満たしているかどうかを事前に確認しておきましょう。また、保健所のルールは改正されることもあるため、特に事業譲渡の場合には開設時の図面が通るかについてもあらかじめ確認しておく必要があります。
・医療機器
CTやMRI、レントゲンなどの大きな機器を買い換える場合、搬入が可能かどうかを事前に確認しておきましょう。
新規開業の場合は搬入経路を確認して、場合に寄っては壁や扉の工事を後に回したりしますが、継承開業の場合は既存の医療機器が設置されているため、新しい機械が搬入できるかどうかを業者に確認しておくと良いでしょう。
また、機械を継承する場合には、事前に機械の動作確認もしておきましょう。この際、機械が故障していた場合にどうするかについても、事前に取り決めておくと安心です。例えば、「継承後〇カ月以内で故障した場合の対応」についてというイメージです。「会計上の価値の分を返金する」、「修理代を売り手が負担する」、「買い手が全て責任を負う」など様々なケースがあります。
・スタッフ
各スタッフの雇用に関して、現院長が引退するのであれば退職を希望するケースも考慮する必要があります。 整形外科の場合、理学療法士や作業療法士などの専門スタッフが退職すると、継承後のスタッフ採用が難航する可能性があるため、スタッフの継続雇用に関しても事前に取り決めをしておきましょう。
また、各スタッフのオペレーションに関しても確認が必要です。各スタッフの業務範囲やオペレーションを確認しておくことで、継承後の業務をスムーズに行えます。
・診療内容
売り手が行っている診療内容についてしっかりと確認をする必要があります。例えば手術の有無や自費診療の内容など、専門性の高い診療が含まれているかどうかを確認しましょう。また薬は何か月分処方をしているか、現在お断りしている疾患は何か、小児は何歳から診ているのかなどについても確認をする必要があります。
V. 整形外科の医師数の増減や地域差統計データ
次に、整形外科の医師数の増減や地域差に関する統計データをご紹介します。
<医師数の増減率>
年度 |
医師数 |
整形外科医師数 |
整形外科医師数の増減率 |
平成30年 |
327,210 |
21,883 |
– |
令和2年 |
339,623 |
22,520 |
2.91% |
令和4年 |
343,275 |
22,506 |
2.85% |
平成30年から 令和4年の増減率 |
4.91% |
2.85% |
|
平成30年から令和4年の増減率は、医師全体で4.91%、整形外科医師は2.85%です。整形外科の医師数は緩やかに増加しており、令和4年12月31日時点で、整形外科は内科に次いで2番目に多い診療科です。
また、厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、診療所の整形外科医の人数と平均年齢は以下の通りです。
整形外科医師数(数) |
男女割合(%) |
平均年齢(歳) |
7,931 |
男性 95.9 / 女性 4.1 |
61.5 |
診療所の整形外科医は男性が圧倒的に多く、平均年齢は61歳を超えています。高齢化社会の進行に伴い、整形外科医師の需要は今後も増えると予測されますが、若い医師の不足による医師不足の問題も懸念されています。
一方、「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」では、臨床研修医の2年後の進路に関するデータも発表されています。
全体数:15846人
<平成28年「臨床研修医」⇒平成30年主たる診療科>
診療科 |
医師総数(人)/割合(%) |
男性(人) |
女性(人) |
内科 |
1,420(9.0%) |
1,033 |
387 |
整形外科 |
1,013(6.4%) |
902 |
111 |
消化器内科(胃腸内科) |
992(1.4%) |
727 |
265 |
このデータから、整形外科は内科に次いで若い男性医師からの人気が高いことがわかります。この傾向は、M&Aにおいても人材確保の面でメリットが生まれる可能性があります。
<整形外科医師数の地域偏在>
古いデータになってしまいますが、平成26年(2014)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況によると、全国の整形外科医師数は25,256人(人口10万人あたり19.87人)で、全国の整形外科医師数の順位は以下の通りです。
<整形外科医師数の多い都道府県>
都道府県 |
総数(人) |
人口10万人あたり(人) |
|
1 |
徳島県 |
230 |
30.11 |
2 |
香川県 |
284 |
28.95 |
3 |
鳥取県 |
161 |
28.05 |
<整形外科医師数の少ない都道府県>
都道府県 |
総数(人) |
人口10万人あたり(人) |
|
1 |
埼玉県 |
940 |
12.99 |
2 |
千葉県 |
982 |
15.85 |
3 |
茨城県 |
463 |
15.86 |
整形外科医師数の多い上位3県以降は、長崎県、高知県、和歌山県、熊本県と続き、整形外科医師数は西日本に多い傾向にあります。
一方で、最も整形外科医師数の少ない県は埼玉県、千葉県、茨城県で、これらは東日本に集中しています。
このように、地域によって整形外科の医師数には大きな差があります。整形外科医として開業を検討する際は、地域ごとの医師数や競合状況、地域による需要を慎重に調査することが重要です。
出典:
・厚生労働省 平成30(2018)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
・厚生労働省 令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
・厚生労働省 令和4(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
・厚生労働省 令和4(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計結果の概要
・厚生労働省 平成26年(2014)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況
Ⅵ. 終わりに
ここまで、整形外科のM&A動向から成功させるためのコツと経営戦略について解説しました。整形外科のM&Aを成功させるためには、医師数の変動や地域ごとのニーズや状況を理解することが重要です。
整形外科のM&Aを検討される際は、専門家のアドバイスを受けながら、戦略的に進めていくことをお勧めします。G.C FACTORYでは、整形外科のM&Aから継承開業まで一貫してサポートしております。整形外科のM&Aをご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。
執筆者:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任