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社会福祉法人のM&Aは可能なのか
Ⅰ.はじめに
昨今、「社会福祉法人のM&Aはできるのか」「社会福祉法人のM&Aはどのように行うのか」など、社会福祉法人のM&Aに関するお問い合わせをいただくことがあります。
そこで、本記事では社会福祉法人のM&Aについて詳しく解説します。
Ⅱ.社会福祉法人とは
社会福祉法人とは、社会福祉法において「社会福祉事業を行うことを目的として、この法律の定めるところにより設立された法人」と定義された、公益性の高い非営利法人のことをいいます。
社会福祉事業は、社会福祉法第2条に定められている第一種社会福祉事業と、第二種社会福祉事業に分けられます。そして、社会福祉法人には税制において優遇があります。
1 行える事業
・社会福祉事業
第一種社会福祉事業:特別養護老人ホーム、児童養護施設、障がい者支援施設、救護施設 など
第二種社会福祉事業:保育所、訪問介護、デイサービス、ショートステイ など
・公益事業
子育て支援事業、入浴・排せつ・食事などの支援事業・介護予防事業、有料老人ホーム、老人保健施設の経営、人材育成事業、行政や事業者等との連絡調整事業
・収益事業
貸ビル、駐車場、公共的な施設内の売店の経営
2 税制優遇
社会福祉法人は、公益事業を目的とした非営利法人のため、原則法人税はかかりません。他にも、事業税や固定資産税、都道府県民税、市町村民税に関しても原則非課税です。
3 運営体制
社会福祉法人は、公益性のある法人のため、他の事業主体とは異なり出資持分や基金は認められていません。そのため、解散時の残余財産の処分は、定款の定めにより帰属すべき人に帰属し、最終的には国庫に帰属します。
社会福祉法人の運営体制は、業務執行の決定機関である「理事会」、法人運営に関わる重要事項の議決機関である「評議員会」、理事の職務執行の監査を行う「監事」、計算書類等を監査する「会計監査人」で構成されています。
役員の定数は、原則、理事が6人以上、監事は2人以上であり、任期は2年以内です。
社会福祉法人において、法人の役員・評議員・会計監査人は兼務できません。また、親族等特殊な関係者の選任においても制限があります。(親族とは、配偶者と3親等内の親族のことをいいます。)
<親族等特殊関係者の選任について>
・理事(6人以上)
各理事と、親族等特殊関係者が3人を超えてはいけません。また、理事総数の3分の1を超えてはいけません。
・監事(2人以上)
監事には、各役員(理事・監事)と親族等特殊関係者が含まれてはいけません。
・評議員(理事定数を超える数)
評議員には、各評議員と各役員、親族等特殊関係者が含まれてはいけません。
出典)
・厚生労働省社会福祉法人の概要
・厚生労働省 社会福祉事業および社会福祉法人について
Ⅲ.社会福祉法人を譲渡するための選択肢
ここでは、社会福祉法人をM&A(譲渡)するための選択肢について解説します。
結論、社会福祉法人は非営利法人であり、出資持分の概念もないため、譲渡対価を設定してM&Aを行うのは難しいです。補足をすると以下になります。
1 経営権の移行のみ
社会福祉法人には、出資持分や基金が存在しないため、医療法人のように譲渡対価をつけて売買することができません。そのため、譲渡対価を設定せずに、理事と評議員を入れ替えるだけの「経営権の移行」のみであれば譲渡が可能です。
2 譲渡対価代わりの、業務委託契約や退職金での支払いはできない
当然ですが、社会福祉法人は非営利法人であり、管轄行政への事業報告が必要であり、役員構成にも地域有識者を加えて適正に運営することが決められています。つきましては、実質は譲渡対価の代わりとした業務委託契約の締結や過大な退職金の支払いは難しいです。
3 事業譲渡もハードルが高い
事業譲渡をする際にも、特別養護老人ホームなどの事業を行える法人(つまりは買い手も社会福祉法人)にしか譲渡ができないことになります。例えば、医療法人社団では老人福祉法で、特別養護老人ホームの設立運営は禁止されています。
また、事業譲渡の場合、社会福祉法人の各施設の多くは、開設時に補助金を活用して設立されており、事業譲渡を行う場合は、補助金を返還する必要が生じる可能性があります。
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Ⅳ. おわりに
ここまで、社会福祉法人のM&Aについて解説しました。前提として、社会福祉法人は公益性のある法人であり、出資持分の概念もないため、売買すること自体が難しいです。
しかし、上記のように、経営権の移行のみであったり、適切な形で社会福祉法人への事業譲渡であれば、可能性があります。
今後、社会福祉法人の継承をお考えの際には、専門的な情報に精通している仲介会社に相談することをお勧めします。弊社では、社会福祉法人の引き継ぎ業務に関しては実績がございますので、お困りの際はお気軽にお問い合わせください。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任