クリニックM&Aの基礎
継承開業に伴う銀行融資 専門用語の解説
Ⅰ.はじめに
M&Aの譲渡実行には「銀行融資の審査が通ること」が実行条件とされていることが多いです。規模の大きい医療法人であれば、全額自己資金でM&Aをする場合もありますが、個人の先生の場合には、銀行融資を用いて資金調達をすることが多いです。その際に、少しでも良い条件で借りたいというのが一般的な意見かと存じます。
本記事では、銀行融資の際に、金利や期間と言ったわかりやすい部分だけでなく、細部までしっかりと比較をするために、各関連用語の解説をします。
Ⅱ.固定金利と変動金利
融資を受ける際に、金利を固定金利にするか変動金利にするか悩まれることもあると思います。ここでは、弊社の実績も踏まえながら固定金利と変動金利について解説します。
1 固定金利とは
固定金利には、全期間固定金利型と当初固定金利型があります。
(1)全期間固定金利
借入時から一定の期間、金利が固定される全期間固定金利型は、借り入れ時の金利が返済開始から終了まで固定されるタイプの金利です。
(2)当初固定金利
借入時から一定の期間、金利が固定されるタイプの金利です。固定期間は一般的に2・3・5・10・20年などから選べ、期間が長くなるほど適用金利は高くなるといわれています。
固定金利は、金利が全期間又は一定期間固定されることで安心感がある一方で、融資時点において、変動金利よりも金利が高く設定されることが一般的です。
2 変動金利とは
借入期間中に適用される金利が変動する金利タイプのことをいいます。
例えば、半年などの一定の期間ごとに適用金利の見直しがされます。上記の通り融資時点において、ほとんどの銀行で変動金利は固定金利よりも利率が低く設定されています。
また、変動金利の変動率の基準として特に地方銀行では、次に紹介するTIBOR(タイボー)を活用していることが多いです。
Ⅲ. TIBORとは
「TIBOR」(タイボー)は、東京銀行間取引金利の略称です。多くの銀行間の取引金利で、企業向けの貸出金の指標とされています。
これは全銀協が毎月の基準金利を定めていて、多くの銀行はそれを変動金利に設定します。銀行からは例えば、「金利は0.7%+TIBORです。」のような形で提案されることが多いです。各銀行が決めた基準値に毎月発表されるTIBORの金利を足した数字の金利を支払います。
ちなみに、TIBORの過去10年間でのレートを全銀協日本円の資料で見てみると、2014年が0.14636%と一番高く、2023年10月31日時点では0.05636%となっています。10年間で0.09%の差があることがわかります。
当然、すべての銀行が変動金利でTIBORを使っているわけではないので、もし融資を考えている銀行が変動金利を使っている場合には、何を参考にしているのか、どういうレートなのかをご確認ください。
Ⅳ. 信用保証協会とは
信用保証協会とは、中小企業が金融機関から事業資金を調達する際に、保証人代わりとなって融資を受けやすくサポートする公的機関で、全国各地に信用保証協会があります。
信用保証協会を利用するメリットは、銀行の融資の審査が通りやすくなることですが、信用保証協会の保証を受けるためには、保証料が必要になります。
例えば、借入額が5000万円、借入期間が60カ月、信用保証料率が1.35%の場合は、保証料は1,856,250円です。この保証料が金利とは別にかかってきます。
保証料は、返済額や借入期間、信用保証料率などによって変わってくる為、あらかじめシミュレーションをしておくことをおすすめします。
参考:東京新保証協会ホームページ 信用保証料簡易シミュレーション
また、信用保証協会を何度も利用することは一般的になかなか難しい為、いつ利用するかをよく考えることが重要です。
例えば、経営状態が良い時や新規開業時など、比較的、信用保証協会なしでも銀行融資が通りやすい状況の場合には、信用保証協会を利用せずに審査を申し込んでみて、それが難しければ信用保証協会を活用してみてはいかがでしょうか。
Ⅴ. 元利均等と元金均等とは
銀行から融資を受け、返済をしていく方法には2種類の方法があります。ここでは、「元利均等返済」と「元金均等返済」について解説します。
1 元利均等とは
返済期間中、毎月支払う返済額と金利額の合計が一定となる方法のことをいいます。
●メリット
・返済計画を立てやすく、将来の見通しがつきやすい
・元金均等返済に比べて、返済開始当初の負担が軽い
●デメリット
・元金均等返済よりも総支払金利額が多い
・借入残高の減りが遅い
2 元金均等とは
毎月支払う返済額と金利額の内、元金の返済額が一定になり、そこに利息分が足される返済方法のことをいいます。
●メリット
・元金の減りが速く、月々の返済額も小さくなっていく
・元利均等返済に比べて総支払金利額が少ない
●デメリット
・元利均等返済よりも返済開始当初の負担が重い
どちらの方法にもメリットとデメリットがありますが、返済時に変動金利を選んでいる場合には、金利が上昇した時の返済額についても対策を考えておくことも大切です。
Ⅵ. おわりに
今回は、銀行の融資にかかわる関連用語について解説しました。
固定金利か変動金利か、元利均等か元金均なのか、保証協会を利用するかどうかなど、融資を受ける際に何を選ぶのか迷うことも多いのではないでしょうか。
ですが、どれが確実に良いということはなく、それぞれの特徴を踏まえた上で、どの銀行から融資を受けるかを決める際の判断材料として本記事をご活用いただければ幸いです。
また、融資をお考えの際には本記事の内容などを理解して複数銀行交渉し、しっかりと医療機関の収支シミュレーションを作成することが重要です。そういった意味でも医療機関専門のコンサルタントに相談することをおすすめします。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任