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G.C FACTORY編集部

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訪問診療とM&A|買い手・売り手のニーズやメリット、注意点

I.はじめに

日頃、「訪問診療をしているクリニックを継承したい」というニーズを多くいただきます。

訪問診療のクリニックM&Aは外来クリニックとは異なるメリットや留意点もあります。

そこで、今回は訪問診療専門クリニック、もしくは訪問診療も行っているクリニックのM&Aについて、ニーズやメリット、注意点を買い手・売り手の目線で解説しますので、ぜひ参考にしてください。

 

※2024年5月現在、訪問診療M&Aと訪問診療の開設の増加に伴い、訪問診療M&Aに関する最新の情報を追記しました。

(追記:2024年5月1日)

Ⅱ.訪問診療はこれからの医療機関の大きなテーマ

日本財団の調査によると、最期を迎えたい場所を「自宅」と回答した人は58.8%、「医療施設」と回答した人は33.9%で、自宅を希望する方が大きく上回るという結果でした。それに対して、厚生労働省の調査によると、実際の死亡場所が「自宅」という人は13.7%、「医療施設」という人は73.7%であり、理想と現実に大きなかい離があることがわかります。

 

このような実態を前に、国は地域包括ケアシステムの推進を急いでいます。2025年には、団塊の世代が後期高齢者になることからも、在宅医療のニーズはますます増えていくと予想されます。在宅医療※が導入された初期と比較すれば要件が厳格化された面はあるものの、国の意向を反映し、在宅医療にかかわる診療報酬点数は高めに設定されています。

 

在宅医療の1つである訪問診療は、今後のクリニックの経営にとって、重要なテーマとなることは間違いないでしょう。

 

(出典:日本財団「人生の最期の迎え方に関する全国調査結果(2021年)」厚生労働省「厚生統計要覧(令和元年度)第1編人口・世帯」)

 

※在宅医療・・・訪問診療、往診などの総称。

訪問診療:患者宅に計画的、定期的に訪問し、診療を行うもの

往診:患者の要請に応じ、都度、患者宅を訪問し、診療を行うもの

(参考:厚生労働省提示資料 平成29年1月11日「在宅医療(その1)」)

Ⅲ.訪問診療クリニック数の推移

次に、訪問診療クリニック数について、記載します。

厚生労働省の医療施設調査では、訪問診療を行う診療所は、2005年は16920施設だったのに対し、2017年には20167施設と、約3200施設が増加しています。

http://gcf.co.jp/wp-content/uploads/2021/06/5bc09915079a5454e7f750d686f4afb8.png

(出典:医療施設調査(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000909712.pdf

 

増加の背景としては、高齢者が医療や介護が必要になった場合にも、自宅や住み慣れた環境で医療を受けられるように、政府が訪問診療を推進していることや、訪問診療には、大型な設備投資や病床が不要な為、開業リスクが少ないと考え、開業する先生が増えていることが挙げられます。

 

一方で、訪問診療専門の継承案件は、外来の案件と比較すると少ない傾向にあります。考えられる理由としては、1つ目は、訪問診療クリニックが増加し始めた期間が短く、歴史が浅い為、まだ引退に至る先生が少ないことです。2つ目は、訪問診療も行っている外来のクリニックの場合、先生が引退する前に、まず訪問診療を停止し、最後に外来クリニックとして売却することが多いことが挙げられます。その為、訪問診療を継続している状態での売却案自体が少なくなっています。

 

しかし、ここ数年で売却案件の数や、訪問診療で開業する先生も増加しているので、今後少しずつ訪問診療の売却案件が増えてくることが予想されます。

Ⅳ.訪問診療クリニックのM&Aニーズ

「訪問診療をしているクリニックを継承したい」「訪問診療をしているが体力的にオンコールが辛くなってきて、誰かに引き継いで欲しい」と考えておられる方も多いと思います。そこで、訪問診療をしているクリニックのM&Aに関して、買い手・売り手それぞれのニーズをご紹介します。

 

買い手は売り手のニーズを理解し、売り手は買い手のニーズを理解することで、候補先を絞ることや、スムーズに交渉を進めることができます。お互いのニーズを理解するための参考にしてください。

 

・訪問診療の買い手のニーズ

まずは、買い手側のニーズについてです。

 

1つ目は、患者さんの継承です。

一昔前とは違い、今は訪問診療を行うクリニックの数も増えています。地域によっては、患者数が増えて経営が成り立つまでに時間がかかることも多々あります。特に訪問診療の場合は外来と異なり、看板を設置したり、WEBマーケティングを活用して短期間で患者さんを増やすということは難しいです。

1か月で3~4人しか管理患者数が増えないというケースも都内では起き得ます。そのため、一から開業するのではなく、既存のクリニックの譲受により患者さんの引継ぎを希望するケースも増えてきています。

 

2つ目は、人脈やノウハウの継承です。

訪問診療はケアマネージャーや施設との関係構築や、訪問ルート作成、各種契約や説明文書のひな型作成など、独特のノウハウがあります。また、体制や実績に応じて算定できる施設基準においても売り手や既存の連携先などの人脈を活用することにより、一から自身で開業するよりも高収益を実現することが可能です。

訪問診療を希望する看護師、訪問診療のレセプトを理解した医療事務、相談員、ドライバーなどの人材採用の面でも継承は有効です。

 

・訪問診療の売り手のニーズ

続いて、売り手のニーズについてご説明します。

 

1つ目は、継承による引退です。

訪問診療は、負担が多く、院長の高齢化に伴い継続が困難になる医師が多いです。その際に継承をすることで、患者さんのために地域医療を守り、スタッフの雇用を維持することができます。

 

2つ目は、負担軽減です。

訪問診療は、24時間365日の対応が求められ、医師の業務量の調整が難しくなりがちです。外来診療で患者さんと向き合い、お昼休みには訪問診療、夜間には往診、帰宅後は経営者としての業務、というように業務の負担が重くなりすぎてしまうこともありますし、院長自身が高齢化していく中で、以前のような働き方ができなくなってきます。

その為、継承をして、自身は医師としては引退をせずに「経営や夜間診療は第三者に任せて、自分は一勤務医として医療に専念したい」と考える医師もいます。

Ⅴ.訪問診療クリニックM&Aの注意点

次に、訪問診療クリニックをM&Aする際に注意する点をお伝えします。

 

・患者さん、スタッフへの説明

1つ目は、患者さんやスタッフとの信頼関係を、売り手から買い手へと引き継ぐことです。これには、売り手・買い手双方が十分な引継ぎ期間を設定して丁寧に行うことが求められます。また順番は当然ですが、スタッフから先に説明をして、次に患者さんに説明をします。

 

また、訪問診療で事業譲渡を行った場合、契約に関する同意書や口座引き落としの書類、訪問診療の説明に必要な書類等を患者さんと直接契約しているケースがあります。

譲渡する際には、その契約を個別に結び直す必要があります。医療法人の法人譲渡であれば、締結し直す必要はありませんが、事業譲渡や個人の先生の場合には、契約の結び直しは必須となりますので、留意が必要です。

 

・診療単価の確認

これは特に事業譲渡の場合、M&Aに寄り、体制や連携先が変わる場合、施設基準が変更となり、売上単価や患者さんの負担金額が変わることもあります。営業権の算定の際に留意をするのと、大きく変わってしまう場合はスキームを検討することも必要です。

 

・地域ネットワークとの連携

M&A後も変わらずケアマネージャーや訪問看護ステーション、病院のソーシャルワーカーと連携できるよう、しっかり引継ぎを行うことです。

訪問診療のあと、患者さんの様子をメールやFAXで伝える医師もいます。このような取り組みをM&A後も継続することが、信頼関係の維持と患者紹介の継続へとつながります。

 

・施設契約の確認

介護老人保健施設や特別養護老人ホーム等の施設に訪問診療している場合、施設側が契約や医療機関を選定していることがあります。

契約を結び直す際に、契約を引き継げないという事態にならないように、譲渡時には、事前に信頼関係を築いておく等の留意が必要です。

Ⅵ.まとめ

本稿では、訪問診療に関するM&Aに関してメリットや注意点についてまとめました。外来とは異なり、訪問診療に特有のノウハウや人脈があります。売り手、買い手双方が理解して、継承を進めることで、M&Aの効果を最大にすることができます。

 

本稿で解説した留意点を考慮しながら、譲渡対価の算出や診療単価がどれくらいになるのか、どの施設基準を優先するのか、どのような施設と契約しているのか、患者さんの詳細な情報等を、事前に確認してからM&Aを行うことをお勧めします。

 

執筆者:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

 

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

 

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任