マーケティング
医療機関M&Aにおけるマーケティング
Ⅰ.はじめに
昨今、医療機関においても「マーケティング」という言葉を耳にする機会が多くなりました。マーケティングは、病院やクリニックの認知活動を行い、患者さんを集めて、安定して経営するために重要になってきます。
マーケティングという面におけるM&Aのメリットは、医療機関の「承継」なので患者さんも引き継ぐことが出来て、承継開業時から一定数患者さんがいることです。ただ、M&Aによって患者さんを引き継ぐ場合でも、直近は患者数が減少している場合や、現時点での経営は順調だけれど将来的に更に良くしていきたい場合に、マーケティングを行うこともあります。
そこで本記事では、医療機関のM&Aにおけるマーケティングの確認点から取り組むポイント、各種広告宣伝の考え方について具体的に紹介します。
Ⅱ. 各種マーケティングの確認点と取り組むポイント
M&Aの場合、既に各種マーケティングに取り組んでいる売り手も多いです。そこで、以下、M&Aにおける各種マーケティングの確認点と承継後に取り組むポイントについて解説します。
(1)ホームページについて
売り手がホームページを作成しているか確認をします。売り手の院長がご高齢の場合、ホームページを持っていないことや本当に簡素な場合もあります。
また、ホームページを作成している場合においても、以下のように承継後に作り直した方が良いケースもあります。
① ホームページのシステムが古い場合
昔ながらのホームページ作成ソフトを使用して作っている場合は、そもそもホームページが見にくかったり、デザイン的に古い印象を持たれてしまったりします。また、編集が簡単に出来なかったり、SEO対策においても不利になったりするケースもあるため、作り直しを推奨します。
② 名称が変更となる場合
売り手から買い手に引き継いだ際に、医療法人名やクリニック名が変わることがあります。(例えば、金子クリニックを山口先生が引き継いで山口クリニックになる場合)この場合にはホームページのドメインなども「@kanekoclinic.com」となってしまっているので、結局一から作り直してしまった方が早いことがあります。
③ SEO対策の取り組み具合が弱い場合
SEO対策(各種検索サイトで上位表示される為の対策)に関しても、クリニックによって取り組み方に差があります。まずは、売り手側がどれくらいSEO対策をやっているのかを確認します。これまで積極的に取り組んでいない場合は、変更する際のリスクが少ないです。
なお、ホームページを作り直す場合の留意点としては以下の3点が挙げられます。
・M&A の過程では、最終譲渡契約を締結、スタッフに対する譲渡に関する情報開示、院内での患者さんへの周知の過程を経て新しいホームページを立ち上げて公開すること
・買い手のホームページ公開後は、売り手側のホームページのお知らせ欄に承継に関するご案内と買い手のホームページのリンクを貼ってもらうこと
・承継開業後は売り手のホームページから買い手のホームページへ転送設定をすること
(2)Googleビジネス、ポータルサイトの確認
ポータルサイト(病院ナビ、エキテンなど様々な医療機関情報を取り纏めているWEBサイト)も承継を行う際には留意が必要です。名称や診療科目など、同じで引継ぎをする場合でも院長変更の申請を行います。
ホームページ同様に情報が変わる場合は、売り手に削除してもらい、買い手で新しく登録し直す方が早い場合もあります。いずれにしても登録されている内容を確認して、ID、PWの共有などもM&Aに伴って行う必要があります。また、こういったポータルサイトは売り手が登録していなくても、勝手に情報が掲載されていることもあります。診察時間など変わる場合は、患者さんが間違えてしまうことに繋がりますので、事前にクリニック名でgoogle検索をして、登録されているサイトの全てに修正が必要になります。
Googleビジネスに関しては、全く取り組んでいない先生も多くいらっしゃいます。また、登録がある場合、マイナスの口コミだけが多く残ってしまっていることがあるので、その場合は敢えて取り消すのも良いです。逆に、Googleビジネスに良い評価や良い口コミが残っている場合は、あえてそのままGoogleビジネスを引き継ぐことも可能です。
(3)WEB広告の有無
売り手が、リスティング広告や有料のインタビュー記事などにクリニックの情報を掲載している場合にも、良い結果を出しているものや必要なものに関しては引き継いで運営することができます。
また、有料のものに関しては、効果の実感などを売り手に聞くとともに、どれくらい閲覧されているかなどのレポートを確認して、取捨選択することが重要です。
(4)駅看板、電柱看板
クリニックによっては、駅看板や電柱看板を出しているケースもあります。こういった看板などは、WEB広告と違って、どれくらいの人が興味を持って見てくれているかのPV数(閲覧数)などの数値管理が難しいです。
アナログの看板を引き継ぐ場合は、前の診療情報が残らないようにすることと、そもそもアナログ看板は引き継ぐ必要があるのかも、しばらく患者さんアンケートなどを実施して確認することが大切です。
(5)その他(SNS、ビラ、口コミ対策など)
その他にも、SNSはやっているのか、ビラやチラシは配っているのか、口コミの対策はとっているのかなど、売り手のマーケティング取り組み具合を細かく確認をして、必要なものは引き継ぐ、必要のないものはやめるという判断をしましょう。
Ⅲ. M&Aにおける広告宣伝の考え方
ご高齢の売り手の場合、ホームページや予約システムがないというケースも多くあります。一見、課題に思われるかもしれませんが、実はこのケースはM&Aの視点で考えるとポジティブなことです。まだ手をつけていないということは、「患者さんの増加余地がある」と捉えることができるからです。
例えば、「売り手側がホームページもなく、何も広告をやっていないが、売上が1億円です」という場合と、「ホームページもあり、リスティング広告もSEO対策も積極的に取り組んでいて、売上1億円です」という場合には、M&A からすると前者の方が伸びしろがあると考えます。
M&A で承継開業するのであれば、売り手側がどんな対策やマーケティングを行った上で、今の売上などの実績になっているかを把握することが重要です。また承継後に新たなマーケティング検討をする際には、売り手に過去に行ったことが無いか、その時の効果はどうだったかなどをよく話し合った上で判断し決めてみてください。
Ⅳ. 終わりに
患者さんが医療機関選びをする際には、口コミやSNS、ホームページから情報を得て判断をします。今後M&Aで承継開業をするのであれば、マーケティングにも注力して取り組むことが大切です。
その際に、M&Aにあたって、売り手の取り組み具合を把握して今後の伸びしろを計るとともに、何を注力するか決定すると良いです。
G.C FACTORYでは、医療承継のマーケティング支援もさせていただいております。承継後のマーケティングについてお悩みやご不安があれば、お気軽にご相談ください。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任