クリニック売却価格
クリニックM&A 良い価格で決まる案件の特徴
Ⅰ.はじめに
クリニックのM&A(売却)を検討する際に、「少しでも良い値段でクリニックを売却したい」と考えると思います。
案件にもよりますが、医療機関M&Aでは一般的に「純資産(または譲渡資産)+営業権」で価格算定を行いますが、本記事では、この価格算定に加えて、良い価格で売却ができている傾向にある案件の特徴について解説をします。これからクリニックM&Aをお考えの方や、少しでも良い値段で売却をしたいとお考えの方の参考になれば幸いです。
Ⅱ.医療機関M&Aにおける価格算定
まずは、医療機関M&Aにおける譲渡価格の算定について解説します。 価格算定は、売却対象が事業か法人かで算出方法が異なります。事業譲渡の場合は、譲渡する資産の金額に営業権を加えて価格算定をすることが一般的です。一方、法人の場合は、譲渡時点での貸借対照表の純資産の金額に営業権を加えて価格算定を行うことが多いです。
この「資産」や「純資産」の部分に関しては、さらに、形骸化している資産(電話加入権など)を除外したり、保険積立金を解約して現金化したり、不動産鑑定を行って土地や建物の価値を時価に直したりと、各種修正を行い価格算定をします。
価格算定の詳しい解説については、以下のコラムも併せてご参照ください。
≪関連コラム≫ 市場価格を考慮した価格設定が、成約への近道 クリニックM&Aで高く売却する7つのポイント
ただし、価格算定はあくまで目安の価格です。価格算定で算出された金額が、実際の譲渡価格にそのまま反映されるとは限りません。売り手の希望価格がそれよりも上回ればその価格でM&A仲介者は相手探しをします。そして実際に価格算定の結果よりも譲渡対価が高くなるケースも多々あります。
後述の【Ⅲ 良い価格で決まる案件の特徴】では、価格算定上の値段よりも実際の成約価格が高く決まった案件についてご紹介します。
Ⅲ. 良い価格で決まる案件の特徴
ここからは、実際の成約として、価格算定よりも高い金額で決まった案件の特徴について解説します。
1 都心部に立地している案件
売却対象クリニックの所在地が都心部か地方かで比較すると、都心部の案件の方が良い値段で決まる可能性が高くなります。
理由としては、地方に比べて都心部での開業希望者の数が多く、競争が働くためと考えられます。
開業希望者に人気のある地域としては、東京23区が特に人気があり、同様にその他一都三県の都市部、大阪・福岡・名古屋の中心部が人気があり、こういった場所にあるクリニックは買い手候補から多く問い合わせが入ってきています。よって、買い手候補の競争が起きやすくなり、売り手の希望価格で譲渡出来る可能性が高まります。
2 内科などの医師数が多い診療科目
診療科目は、価格算定式では直接影響しません。ですが、立地と同様に希望者が多い診療科目の方が良い価格で決まりやすいです。例えば内科などの医師数が多い診療科目と、医師の数が少ない専門的な診療科目が同じ利益で売りに出ていた場合、内科などの医師の数が多い診療科目の方が、買い手候補の中で競争が起きやすく、値崩れしにくくなります。
一方、買い手がなかなか決まらない場合は、譲渡価格を値下げして、再度買い手の探索を行うというステップが必要になります。
具体的に弊社の実績として良い値段が付きやすい診療科目は、やはり内科系の診療科目となりまして、一般外来に限らず、健康診断専門のクリニックや訪問診療のクリニックも人気です。その次に整形外科・皮膚科・精神科・小児科なども人気です。一方でこういった診療科目でも、売上構成の中でまた、専門性の強い手技や診療での割合が大きい場合には、買い手候補も限られてしまうため良い価格が付きにくい傾向にあります。
3 簿価よりも各資産の状態が良いクリニック
当然ですが、クリニックの内装が綺麗な場合や医療機器の状態が良い場合には、良い価格が付きやすいです。資産の部分は、会計上、減価償却されていき簿価は下がっていきますが、耐用年数に対して実際の使用状況が良く、しっかりメンテナンスが行われている場合や、内装に品質の良い素材を使用していることで劣化が少ない場合には、良い値段が付く可能性が高いです。
実際に買い手が内見をした際に想定よりも状態が良かった場合には、価格算定時よりも高い値段に設定したとしても成約しやすくなります。
4 売上の増加余地が多いクリニック
価格算定をする際に用いる【純資産+営業権】における「営業権」の部分に関しては、直近1年分の利益に基づくことが多いです。(直近3年分で傾斜をつけて算定をする場合もあります)
例えば、売り手の院長先生が引退を考えるようになってからしばらく経っており、直近4~5年間は診療日数や診察時間を減らしているケースがあります。この場合、過去に週5日診療していた頃の売上がとても高かった場合に、買い手が引き継いだ後で週5日の診療をすれば、患者さんが増加する余地があるといえます。同様に、売り手院長が引退を考えて新患の受け入れを抑えていたり、処方日数を長くしているようなケースもあります。
このように、売り手が高齢に伴って、意図的に売上営業権を下げているような場合には、買収後に利益が出やすい為、コンサルタントとしても買い手にアピールをすることが出来、成約時に良い値段が付くことがあります。
5 その他
1~4の特徴に加えて、以下の場合にも価格算定には反映しにくいけれど、実際の成約時にプラス要素として評価される可能性があります。
・優秀なスタッフや専門職のスタッフが多く、勤続年数も長い場合
・管理医師や非常勤医師が譲渡後も継続してくれる場合
・地域の評判が良い場合
・病床を有している
など、価格算定上は反映しにくいアピールポイントでも、買い手からすると買収後のメリットになることがあります。このような点を含めてアピールポイントをM&A仲介者としっかりと打ち合わせることが重要です。
Ⅳ. 終わりに
ここまで、クリニックM&Aにおける価格算定や考慮すべきポイントについて解説してきました。
医療機関M&Aでは価格算定を行いますが、この価格算定では、診療科目や詳細の診療内容、売上の増加の余地などの細かい部分を反映せずに算定することがほとんどです。
クリニックM&Aをする際には、適正な価値で譲渡が出来るように、実際に過去の成約事例の特徴や価格を把握しているコンサルタントと相談をして決めることが重要なポイントです。
弊社では、専門性の高いコンサルタントが最後まで誠実に対応する体制が整っております。譲渡価格についてのご相談やクリニックM&Aをお考えの際には、是非お気軽にご相談ください。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任