クリニック運営
医療法人における理事・監事・社員の選任について
Ⅰ.はじめに
医療法人の適正な運営には、社員と役員(理事・監事)の適正な選任が重要となります。
また、医療法人のM&Aでは、売り手から買い手に対して、出資持分や基金の譲渡と合わせて、社員や理事の権限の移譲を行います。そのことからも、社員と理事の選任についてのルールを理解しておくことは重要です。
本記事では、医療法人の理事・監事・社員の選任に関する条件からその留意点まで詳しく解説します。
Ⅱ. 理事の選任
まず、理事についての選任条件や選任方法、留意点について解説します。
1 理事の役割
理事の役割ですが、理事は理事会の一員として、その過半数決定によって、医療法人の各業務執行を決定します。また、理事は医療法人に重大な損害を及ぼす恐れのある事実を発見した場合には、速やかにその事実を監事に報告しなければなりません。
理事長は、理事の中でも医療法人を代表している立場になります。これは株式会社で言う、代表取締役に近いものがあります。
2 理事選任における適格性
理事として選任できる適格性には、以下の項目が挙げられます。
(1)自然人であること
(2)選任時から在任期間中において以下の欠格事項に該当していないこと
・欠格事項例
① 精神機能の障害により、適正な判断や意思疎通を行うことができない
② 医療法・医師法など医事に関する法令の定めにより、罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わった、又は執行を受けることがなくなった日から起算して2年を経過していない
③ ②を除き、禁錮以上の刑に処せられ、その刑が終わった又は執行を受けることがなくなった
など、理事に選任する為には、まずこれらの要件を満たす必要があります。
3 理事の選任における条件
理事長は、原則として医師又は歯科医師である必要があります。一方、理事は医師又は歯科医師ではない場合にも選任可能で、実際に医療法人の運営に参画できる人が適任とされています。
また、開設するクリニックや病院の院長(管理医師)に就任する人は、すべて理事に加えます。
4 理事の選任方法
理事は社員総会(定期または臨時社員総会)にて選任されます。理事長は、理事会において理事の中から選出されます。理事長も理事も任期は2年であり、2年経っても継続をする場合は重任手続きが必要です。
5 人数
各医療法人の定款に定数が記載されています。また医療法人の設立時には3名以上を選任する指導をされる都道府県が多く、法人設立後も退任などで3名を下回る場合は、追加選任するように指導されることが多いです。(1名でも欠員が生じた場合には速やかに補充します。)
6 留意点
理事の選任にあたり資格などの要件はなく、理事長の親族も就任可能ですが、取引企業の代表が理事長に選任される場合など、行政から指導が入る可能性があります。
また、役員の親族や、その親族が経営する企業(MS法人等)との取引においては、双方の社員、役員構成により、医療法人の事業報告の際に、取引内容の報告が必要になるので注意が必要です。
Ⅲ.監事の選任
次に、監事について選任条件や選任方法、留意点について解説します。
1 監事の役割
医療法人の適正な運営の為、業務や財産状況の監査を行います。
理事会やその他の重要な会議への出席、理事などからの職務執行状況の聴取、重要な決算書類などを閲覧した上で、業務や事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書などの財産の状況について監査します。
監査の結果、業務や財産に関する不正や、法令または定款に違反する重大な事実を発見した場合には、各都道府県もしくは社員総会に報告します。
また、監事は理事会に出席する義務があり、医療法人の業務や財産の状況などについて、必要に応じて意見を述べることもあります。
2 監事の適格性
監事の適格性は、理事と同様です。
(1)自然人であること
(2)選任時から在任期間中において以下の欠格事項に該当していないこと
・欠格事項例
① 精神機能の障害により、適正な判断や意思疎通を行うことができない
② 医療法・医師法など医事に関する法令の定めにより、罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わった、又は執行を受けることがなくなった日から起算して2年を経過していない
③ ②を除き、禁錮以上の刑に処せられ、その刑が終わった又は執行を受けることがなくなった
など、監事に選任する為には、まずこれらの要件を満たす必要があります。
3 監事の選任条件
監事は、理事の業務を監査する役目がある為、財務諸表を監査できる人を選任します。適正な監査をする為、理事の親族や医療法人と取引関係にある法人の役員など、特殊な関係がある人はは就任できません。また、医療法人の理事と監事の兼任はできません。(社員は兼任可能)
一方で医師、公認会計士、弁護士、税理士などの資格要件はありません。
4 監事の選任方法
理事と同様に、社員総会で選任されます。そして、理事と同様に任期は2年です。
5 人数
監事は、原則1名以上の選任が必要です。
理事と同様、欠員が生じた場合には速やかに補充します。
6 留意点
良くある質問ですが、医療法人の顧問税理士や顧問弁護士は監事に就任できない為、注意が必要です。
学生時代の友人などに頼みたいところですが、役割の通り財務資料を見ることになるので、難しい点もあります。そのため、医療法人の設立許可申請期限までに選任ができるよう、早めに候補を決めておくことをお勧めします。
Ⅳ. 社員の選任
最後に、社員についての選任条件や選任方法、留意点について解説します。
1 社員の役割
社員は、医療法人の最高決定機関である社員総会の構成員であり、医療法人の役員選任、定款変更など、重要な事項について決議をする権限があります。株式会社と異なり、社員総会においては、出資額に関わらず1人1つの議決権を有します。
2 社員の選任条件
医療法人の社員に就任できるのは、自然人と非営利法人のみとされていますが、特別な資格は必要ありません。
社員は医療法人の最高決定者なので、社員総会での決議次第で理事長を解任することも可能です。よって過半数を親族や親しい友人などの信頼できる人で構成することが多いです。
また、社員は理事と監事との兼任も可能です。
3 社員の選任方法
医療法人の社員は、社員総会によって選任されます。理事と異なり、変更をした際の都道府県への届け出は不要です。
4 人数
理事と同様に設立時に3名以上の選任が必要と指導されることが多いです。
5 留意点
小規模の医療機関では、社員と理事を兼ねているケースが多いですが、必ずしも社員の中から理事を選任する必要はありません。また、出資持分を持っていなくても社員総会の選任により社員になることができます。
年齢の制限もないため、未成年者においても、自分の意思で議決権を行使できる弁別能力を備えている人(義務教育終了程度)であれば、社員になることが可能です。
Ⅴ. おわりに
ここまで、医療法人M&Aにおける理事・社員の選任について解説をしました。 医療法人M&Aでの理事・社員の選任において、事前に理事や監事、社員に関する定款について確認しておくことや、直近の社員総会の議事録を確認し、参加人数やどのような人が参加しているのかなどの情報を把握しておくことが重要です。
また、円滑な医療法人の運営をする上で、社員の選任は特に重要なポイントとなりますので、理事や社員の選任や取引を含めて医療機関専門のM&Aコンサルタントに相談してみてはいかがでしょうか。
弊社では、医療機関専門のM&Aコンサルタントや法律、医療などそれぞれの業界に精通している専門家のサポートが充実しておりますので、お困りの際は是非お気軽にご相談ください。
参考
・厚生労働省「第2章 医療法人の適正な運営に関するチェックリスト(組織・運営)」 ・厚生労働省「医療法人運営管理指導要綱」
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任