採用、人事
クリニックM&A スタッフ採用における留意点
Ⅰ.はじめに
クリニックM&Aでは、譲渡後も既存スタッフの雇用を引き継ぐことが一般的ですが、欠員がでたりして新しくスタッフを採用することも多くあります。
本記事では、どのような時に新しいスタッフを採用する必要があり、その時の留意点など、クリニックM&Aにおけるスタッフ採用について、詳しく解説します。
Ⅱ. M&A後に採用が必要になるケース
まず、譲渡後に新しくスタッフを採用する4つのケースについて解説します。
1 居抜きのクリニックなど、資産譲渡の場合
M&Aの中でも、前院長はすでに引退しており、スタッフも退職済みで引継ぎのない場合には、譲渡後に新規スタッフの採用が必要になります。
このような資産譲渡の場合におけるスタッフ採用は、雇用条件や就業規則も新しく決め直すので、基本的に新規開業と同じような考え方でスタッフ採用を進めます。
2 継承前のスタッフに退職が生じた場合
元々勤務していたスタッフが、継承前に退職した場合に、買い手は新しくスタッフを採用する必要があります。
3 診療日数や時間の拡大が行われた場合
譲渡後に、既存のスタッフが残って引き続き勤務をする場合でも、診療日数や時間が譲渡前よりも広がり、採用が必要になるケースがあります。
例えば、譲渡前は週5日の診療をしていたが、譲渡後に旧院長が週1日診療を継続してくれることで、合計して週6日の診療が可能になります。
このように診療枠が拡大する場合には、拡大する日数や時間に合わせて、その分のスタッフ人数の増加を検討する必要があります。
4 診療内容に変更が生じた場合
譲渡後に受付スタッフや看護師を引き継いだが、注力したい診療内容に変更があった場合には、その内容に対応できる専門のスタッフを採用する必要があります。
例えば、X線やCTを撮っていくと決めた場合には、放射線技師の採用が必要になり、エコーに力を入れる場合には、検査技師を新しく採用する必要があります。
また、譲渡前からの整形外科の内容にリハビリ科も追加したい場合には、そのリハビリ診療科目に対応できるスタッフを新しく採用します。
このように、譲渡後の診療内容において注力したいものが変わった場合、その変更内容に伴いスタッフの新規採用も行います。
Ⅲ. M&A後に採用をする際の留意点
M&A後にスタッフ採用を行う際には、注意点があります。
1 M&Aの情報流出に注意
求人媒体への掲載のタイミングや記載情報には、特に注意が必要です。
スタッフの採用情報を求人媒体に掲載する際には、必ず所在地やクリニック名も記載されます。M&Aの最終契約が締結される前に、売り手に相談せずに採用情報を掲載してしまったり、譲渡することを既存スタッフに伝えていない段階で求人媒体が出てしまうことで、スタッフや患者さんに情報が漏れてしまい混乱や不信感を招く可能性があります。
このようなトラブルが起きないように、最終契約締結後の求人媒体への掲載のタイミングには細心の注意が必要です。 また、最終契約の締結前に求人媒体に掲載する場合にも、売り手と買い手で「どこまでの情報を掲載するのか」などをしっかり話し合って決めることが重要なポイントです。
2 既存スタッフとの条件の違いに注意
新規スタッフを採用する場合には、既存スタッフの給与と新規スタッフの給与に差が出ないように配慮する必要があります。元々の雇用条件の一部を変更する場合にも、既存スタッフに事前に相談するなどの対応が必須です。
例えば、買い手が譲渡前の雇用条件の一部に対して不要な手当だと判断し、相談なく既存スタッフの手当を外してしまったり、交通費の上限を変更してしまうことはトラブルの原因となります。新規スタッフを採用する際には、既存スタッフと新規スタッフの雇用条件に差が出ないように配慮が必要です。
3 譲渡実行前に入職してもらう場合
譲渡実行前にスタッフの欠員や研修目的で新規スタッフに入職してもらう場合にも、注意が必要です。
例えば、4月1日に譲渡実行予定だったが、2月末でスタッフが1人退職してしまった場合、譲渡実行までの業務に支障がでてしまいます。
この解決方法としては、2つのケースが想定されます。
(1)譲渡実行までの期間は、既存スタッフで何とかシフトを回す (2)譲渡実行前に採用を行い、新規スタッフに入職いただく
(2)の新規スタッフに前倒しで入職していただく場合には、新規スタッフの給与は研修として買い手が払うのか、勤務として売り手が払うのかなど、譲渡実行までの給与や待遇についてよく相談して決める必要があります。
また、研修目的で譲渡実行前に勤務してもらう場合も同様に、買い手と売り手でよく話し合いトラブルを防ぐことが重要です。
4 応募者から連絡があった際の対応
譲渡前のクリニックに、譲渡後の求人に対するお問い合わせや履歴書が届いた際の対応についても、売り手と買い手で話し合って決めておきます。
例えば、情報の共有が無いまま、譲渡後の新規スタッフ採用に対するお問い合わせが譲渡前のクリニックに来てしまうと、既存スタッフは対応方法が分からず混乱してしまいます。また面接はどちらが行うのか、合否の決定はどちらが行うのかなどについても話す必要があります。
Ⅳ. おわりに
ここまで、クリニックM&Aにおけるスタッフ採用が必要になるケースから留意点について解説をしました。
新規スタッフを採用する際に買い手は、売り手や売り手のスタッフと丁寧に連絡を取り、新規スタッフの採用に関する情報共有をしておくことです。
弊社では、譲渡契約締結後のスタッフ採用を含む様々な工程に対してもご支援しております。これからクリニックM&Aを考えている方、譲渡後の新規スタッフ採用についてお悩みの方は、是非お気軽にご相談ください。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任