G.C FACTORY編集部

M&A法務、契約関連

医療機関M&Aの基礎⑤「基本合意契約とは?意味合いと記載事項」

 

Ⅰ.はじめに

前回は医療機関M&Aの基礎④にて意向表明について解説をしました。そして、買い手の意向表明を売り手が承諾した場合、譲渡価格、スケジュール、独占交渉権の付与などをまとめた、基本合意契約に進みます。

本記事では、その基本合意契約に関して、その意味合いや記載事項、留意点などについて詳しく解説します。

 

▼意向表明についてはこちらの記事もご参照ください。 医療機関M&Aの基礎④「意向表明とは?流れと留意点」

 

Ⅱ.基本合意契約は必要か

弊社の支援実績の中では、基本合意契約を締結するケースが多いです。基本合意契約には、以下、大きく2つの目的があります。

 

①これまでの決定事項の確認

②買収監査を行うにあたっての独占交渉権付与と売り手の買収監査の協力合意

 

です。

今まで交渉してきた内容について、双方で確認し条件を明確にできることや、独占交渉権を付与されることは、買い手にとって基本合意契約を締結するメリットであるといえます。

というのも、買い手はM&Aの為に様々な手間と時間を割いて進めます。特に最終契約前の買収監査、融資交渉などには、労力や費用が必要になります。

 

しかし、もしも独占交渉権が付与されていない場合、売り手がその買収監査や融資交渉をしている期間に、他の買い手に売却してしまうなどが生じる可能性があり、それまでにかかった買い手の手間や時間が無駄になってしまいます。独占交渉権を得ることで、このような事態を未然に防ぎ、買収監査にも落ち着いて進むことが出来ます。

 

また、M&Aを進めていく中で双方の認識のズレが生じないようにする為にも、それまでの決定事項を書面で確認をする目的として基本合意契約を締結します。

逆を言えば、買収監査や資金調達を行う予定も無く、他に買い手候補もいない状況であれば、基本合意契約を省略して、最終契約に進むこともあり得ます。

以下、この基本合意契約を締結する場合、しない場合について詳しく解説します。

 

Ⅲ. 基本合意契約を締結する場合

上記の通り、基本合意契約締結の必要性は、買収監査や資金調達の実施の有無によって変わってきます。買収監査を実施するかについて、スキーム(法人譲渡、事業譲渡)も踏まえて解説します。

 

1 法人譲渡の場合

法人譲渡の場合、譲渡により、法人が締結している契約、抱えている裁判、借金なども当然に引き継ぐ対象となります。その為、法人譲渡の場合は買収監査をしてリスクを確認することが多いです。

 

また、法人譲渡の場合は、譲渡対価を売却対象の医療法人で借入して売り手に退職金で支払う方法を取ることも多くあります。その場合も融資の協力の依頼や、独占交渉権の付与の為に基本合意契約を締結することが望ましいです。

 

2 事業譲渡の場合

事業譲渡は法人譲渡と異なり、譲渡するだけで契約や借入などは原則引き継がれず、それぞれ契約を結び直すことになります。しかし、事業譲渡の場合も買収監査をするケースがあります。

例えば、不動産鑑定で「譲渡する資産の現在の正確な価値の鑑定をしたい」という希望がある場合や、労務面で、「従業員を同じ契約条件で引き継ぐこと」が譲渡条件に入る場合、現在の条件が合法なのか、雇用契約書、就業規則や各規定を確認します。

 

また、財務面でも、提出してもらった確定申告などの資料を元に売上や利益などの営業権の算出をしています。よって、診療報酬の過剰請求をしていたり、一過性の雑収入を売上として計上していたり、本来計上しないといけない費用を決算書に計上せず利益がでているように見せていたりなどが無いかを監査で確認することもあります。

 

また法人譲渡の場合と同様に、融資交渉や不動産賃貸交渉で時間や手間がかかる場合には、その間の独占交渉権の付与を目的に基本合意契約を締結するケースもあります。

 

Ⅳ. 基本合意契約を締結しない場合

1 法人譲渡の場合

法人譲渡の場合、上記の通り、多くのケースで基本合意契約を締結して、買収監査をします。

一方で例えば、譲渡価格が低く資金調達も不要であり、売り手が知り合いであり譲渡後も責任を持って譲渡契約書の内容を履行してくれると安心できる関係性の場合などに買収監査を割愛することになります。その場合、すぐに最終譲渡契約書の締結に移れるため、基本合意契約を締結しないことがあります。

 

2 事業譲渡の場合

事業譲渡の場合、法人譲渡とは異なり、契約などは全て締結し直す為、売り手に借金や訴訟があった場合にもそれ自体は引き継ぐことはありません。それを理由に小規模の事業譲渡の場合は譲渡契約書の記載で補う形で買収監査を行わないことがあります。

 

また、事業譲渡と言っても、実質内装や医療機器の譲渡が主であり、スタッフや患者の引継ぎは最小限という場合も買収監査を行わないことがあります。そういったケースで、資金調達なども必要なくすぐに最終譲渡契約書の締結に移れる場合は基本合意契約を省略することがあります。

 

Ⅴ. 基本合意契約の記載事項・留意点

基本合意契約には、買い手と売り手の双方で内容の確認をして合意した内容を記載します。

主な記載事項の例を以下記載します。

 

1 譲渡価格

現在、決まっている譲渡価格を記載します。 この条項は基本合意の段階では、法的拘束力を持たせないことが多く、買収監査の後に変更になる可能性があります。

 

2 スキーム

特に、法人譲渡の場合は、「出資持分譲渡」「退職金支給」など、どのように売り手に譲渡対価を渡すかについて記載します。

 

3 スケジュール

基本合意契約締結後の、「買収監査」「融資審査」「最終契約締結」「譲渡実行」などについて目安のスケジュールを記載します。

 

4 秘密保持義務

改めて、売り手と買い手が今回のM&Aで得た一切の情報を、相手の承諾なしに第三者への開示、漏洩・公表することを禁止します。この時、契約後にも秘密保持義務が継続する期間を記載します。

 

5 独占交渉権の期間

独占交渉権は、独占交渉権を付与された買い手だけが売り手とM&Aの交渉をできる権利です。独占交渉権の期間を定めることで、売り手は期間中に他の買い手候補と自由に交渉をすることができなくなります。売り手にとってはその間交渉ができなくなるので、通常1.5か月~2か月などに限定して定めることが多いです。

 

6 法的拘束力の範囲

基本合意契約では、「法的拘束力の範囲」が指定されるのが特徴です。

例えば、買収監査をした結果、譲渡価格などの条件は変わる可能性がある為、必ずしも基本合意契約に記載した譲渡価格や条件で売却しないといけないというわけではありません。一般的には「機密保持」「買収監査の協力」「独占交渉権の付与」など一部の内容にのみ法的拘束力がつくことが多いです。

 

7 買収監査への協力

買収監査は、弁護士や公認会計士、税理士などの専門家に依頼をして行われます。買い手は、買収監査に非常に多くの時間と費用を費やすことになる為、基本同意契約ではこの買収監査に売り手も協力するように定めます。

 

8 その他

その他、買い手と売り手の方がお互いに確認したい事項があれば記載します。例えば、融資審査の事前確認の協力や、基本合意後の買い手の見学の取り決め、最終契約前の賃貸オーナーへの確認などについて記載をします。またいわゆる「一般条項」と言われているような、「合意管轄」「反社規定」「解除」などの規定も記載することが多いです。

 

Ⅵ. おわりに

今回は基本合意契約についてまとめました。基本合意契約は必ず締結をするものではありませんが、最終契約の交渉に入る前に、お互いの認識を揃える意味でも締結をお勧めしています。基本合意契約を締結する際に、本コラムをお役立ていただければ幸いです。

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著者:株式会社G.C FACTORY 広報部

日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。

 

 

 

 

監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任