G.C FACTORY編集部

クリニックM&Aの基礎

医院継承をすると医師としても引退になってしまうのか

 

Ⅰ.はじめに

医院継承を考える年齢になってくると、「まだ数年は働けるが、将来的に医院継承が出来なかったら困る」「医院継承をしたら医師として働くことは出来なくなるのだろうか」と不安を感じたり、売却すること自体に迷いが生じることもあるのではないでしょうか。実際に、弊社の売り手のお客様では、平均して60代の先生からご相談を受けておりまして、皆様まだまだ診療を継続することは可能な段階で、継承のご相談をいただいております。

 

結論を申し上げますと、医院継承後にも医師として引退をせずに働くことは十分に可能です。

本記事では、医院承継後の具体的な勤務方法から留意点まで解説します。医院継承について迷われている先生方のご参考になれば幸いです。

 

Ⅱ.医院継承後の勤務の方法

ここでは、医院継承後の勤務の方法について5つのケースに分けて解説します。

 

1 雇われ院長

買い手が医療法人の場合に、その医療法人の雇われ院長として勤務が可能です。

具体的には、売り手が個人クリニックで院長をしており、そのクリニックを買い手となる医療法人が買収し、買い手の医療法人の分院として展開する場合に、双方が望めば売り手は、引き続き雇われ院長として継続勤務することが出来ます。

このケースの売り手から見たメリットは、

 

・売り手の院長は勤務日数や勤務時間などにおいて、譲渡前と変わらない働き方が出来る

・従業員の視点から見ても、譲渡後に大幅な変更がなく働くことが出来る

・将来的に「院長を引退したい」となった場合には、院長から外れて勤務医師になる選択肢もある

・譲渡後は買い手の医療法人が開設者となるので、労務、経理、人事、採用などの経営者業務からは解放されて診療に集中をすることができる

 

などがあります。

また買い手から見たメリットとしては、

 

・継承後、新たな管理医師の採用するにあたって時間的な猶予ができること

・いきなり環境が変わることによる従業員の退職を抑制することができること

・院長が変わることによる、患者さんの離脱を防ぐことができること

 

などがあります。

 

2 非常勤医師

買い手が医療法人・個人どちらの場合にも、売り手の院長は非常勤医師として勤務することが出来ます。この方法での売り手のメリットとしては、

 

・週1日~2日で非常勤として働くことになり、前項で解説した「1.雇われ院長」と比べて、管理責任などの負担が軽くなること

・診療の面でも、勤務日数も減るので肉体的な負担を大きく減らすことができること

・プライベートを充実させつつも「長年診てきた患者さんだけは継続して診る」などができること

 

などがあります。

また、買い手のメリットとしては、

 

・非常勤医師として残ってもらうことで、売り手の院長の顧客の離脱を防ぐことが出来ること

・買収後には、新しく院長が就任することになり、例えば、新院長が週5日で診療し、売り手の元院長が週1日で診療した場合、週6日間の診療が可能になり、固定費の有効活用ができること

・非常勤医師として前院長が残ることにより、買収時の引き継がれていない運用面での質問ができたり、想定していなかった買収前の請求書などが届いてしまったなどもスムーズに対応することが出来ること

 

などがあります。

 

3 他の医療機関で勤務

クリニックを売却後、売り手の院長が他の医療機関で勤務をするケースです。売り手が医師としての勤務を希望しているものの、買い手が売り手の院長の継続勤務を希望していない場合や、売却後に診療科目が変更になる時に、他の医療機関で勤務することがあります。

 

4 雇われ理事長(院長)

医療法人の出資持分や最高決定機関である社員総会の構成員である社員の地位は譲りつつも、売り手が理事長兼院長で残る場合です。このケースは、株式会社や非医師の個人に売却をする時に稀に起きます。

売却先が、医療法人に新規参入する株式会社の場合、医療機関経営の実績がなく、人脈などに乏しいことで新しい理事長(院長)が見つからないことがあるためです。

 

この場合、売り手の理事長(院長)が残り、譲渡後に雇われ理事長(院長)として勤務します。

メリットは、売り手の医療法人を高値で売却出来る可能性があることです。このケースは、なかなか行われない稀なスキームであり、譲渡対価が値上がりしやすい為、高値での売却が予想されます。

その一方で、危険性も伴います。医療法人の最高意思決定機関の社員は買い手に譲ることになるものの、名前には売り手が明記されたままになります。その為、裁判や訴訟などが起きた際には、その対応責任を負うことになります。

 

次の理事長が決まるまでの期間限定であったり、信頼できる関係の買い手であれば例外的に雇われ理事長(院長)として働くことも良しとされる場合もありますが、基本的にはあまり推奨できない勤務方法です。

 

5 最終譲渡契約締結から譲渡実行までの間を空ける

「売却をして引退することも出来るが、本当はあと1、2年続けたい。しかし、今売却先を探さずに今後見つからないのは不安」という場合、M&Aにおいて最終譲渡契約締結から譲渡実行までの期間を空けることで、この問題は解決します。

その期間を空けることで、「買い手が見つからないかもしれない」という不安を払拭し、譲渡実行日まで診療を続けることが出来ます。

この方法については、M&Aの進め方や相手探しに配慮をすることで実現可能となることが多い為、まずは専門のコンサルタントに相談してみてください。

 

Ⅲ. 継承時の留意点

ここでは、上記のケースを踏まえて、継承時の2つの留意点について解説します。

 

1 M&Aの買い手探しの際に、売り手の勤務継続を前提条件として探す

前述の1~4までのケースは、売り手が継続勤務を条件として買い手を探します。勤務前提ということを買い手に伝える為に、【継続勤務必須】【〇年間雇用必須】などの条件をノンネームシートの段階から付けることも可能です。

また、非常勤医師で勤務する場合にも【何曜日の何コマは売り手の院長が診療する】という条件を付けることも出来ます。ただ、一般的に買い手も【継続勤務応相談】を記載した時に、好意的に受け入れてくれることが多いので、このような条件設定はwin-winになることが多いです。

実際に弊社の成約実績を見ても、売り手が継続勤務を希望するケースにおいては、そのほとんどのケースで一定期間の継続勤務をされています。

 

2 事前に伝えて競業避止義務を外す

前述の3で解説した「他の医療機関で勤務」をする場合には、買い手に事前にその意思を伝える必要があります。

というのも、もし、譲渡後に売り手の院長が近隣のクリニックで働くことになった場合、買い手としては脅威となる為、最終契約時に誓約事項として競業避止義務を定めることが一般的です。競業避止義務を結ぶと、売り手の院長は他の医療機関での勤務は出来なくなる為、事前に買い手に意向を伝え、合意の元で競業避止義務を外す必要があります。

 

Ⅳ. おわりに

ここまで、医院継承後の具体的な勤務方法から留意点について解説しました。案件毎にさまざまなケースが想定される為、あくまで一例としてご参考いただければ幸いです。

医院継承は早めに行動をした方が良いという一方で、すぐには医師を引退せずに継続勤務をしたいというケースが増えています。

 

本記事で解説した勤務方法だけでなく、例えば最初は雇われ院長で働き、その後で非常勤医師として勤務、最終的に家族や身内のクリニックで働くといった、いくつかの働き方のパターンを組み合わせての設計も十分に可能です。

弊社では、医院継承のサポートからご希望に合わせた働き方のご提案まで支援をさせていただいております。まずは、お気軽に専門のコンサルタントまでご相談ください。

 

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著者:株式会社G.C FACTORY 広報部

日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。

 

 

 

 

監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任