クリニックM&Aの基礎
医療機関の廃止の流れ
Ⅰ.はじめに
後継者不在や経営不振など、様々な理由で医療機関の廃止を検討されることはあると思います。
今回のコラムでは、医療機関の廃止のスケジュールから、廃止にかかる費用、M&Aとの比較について詳しく解説します。
Ⅱ. 廃止のスケジュール
まず、医療機関を廃止するスケジュールの目安と留意点について解説します。
1 3カ月ほど前:スタッフへの周知
スタッフへの周知は、一般的には、廃止の3カ月ほど前を目安にします。
あまりに早く周知をしてしまうと、スタッフが退職を検討してしまい、廃止前に退職をしてしまうことも起きてしまいます。その際に補充で新規採用をすることは難しいので注意が必要です。
一方、スタッフへの説明が廃止の直前になってしまうと、廃止に伴う片付け等の作業が直前までできなくなってしまったり、廃止までに行う必要のある手続きや近隣のクリニックへの挨拶等がスムーズにできなくなる可能性があります。
また、何より、スタッフが第三者などから廃止の事実を知ることになるのは避けなくてはいけないです。
スタッフとの信頼関係によっても周知のタイミングは多少前後しますが、廃止が決まった際には、スタッフへの周知を優先にしてスケジュールを組むことが大切です。
2 スタッフ周知後:医師会や近隣医療機関などお世話になっている方へ周知
スタッフへの説明をした後、医師会や近隣のクリニックの先生、不動産のオーナーなどお世話になっている方へ挨拶をします。こちらもやはり業者経由など、第三者から知られることの無いように配慮が必要です。
3 2カ月ほど前:患者さんへの周知
スタッフと、お世話になっている方への周知が終わり次第、患者さんへお知らせします。
この時に注意をするのは、患者さんの来院頻度です。1~2カ月単位で薬を処方する先生ならば、2か月前には廃院のご案内を患者さんに開始する必要があります。
それよりも長い期間で薬を処方している場合には、その分早めに患者さんへの周知をするか、もしくは患者さんに連絡をして前倒しで来院をいただき、他院への紹介状を書く必要があります。
4 2カ月ほど前:各種契約の終了通知
患者さんへの周知と同じタイミングで、各業者さんに連絡を行い、契約の終了通知を行います。
廃止後に契約が継続しないようにする必要がありますので、前もって、各契約の解約通知が必要なタイミングを確認します。
特に、賃貸契約書は注意が必要です。定期借家契約など、解約の際に違約金が生じる場合もありますし、解約通知が「半年前」など長めのことも多いです。
また、廃止日に賃貸契約を終了してしまうと、院内の片付けなどの作業が行えなくなる可能性があるので、廃止日の翌月以降に契約終了となるように手続きをする必要があります。
5 1カ月ほど前:廃棄にかかる見積もり取得
目安として、廃止の1カ月ほど前までには、内装の解体費や医療機器の廃棄代、機密文書等の処分代などの見積もりを取得します。
資産価値が残っているものは、中古医療機器会社などに販売をしたり、最近はフリーマーケットアプリのようなもので販売まではいかずとも、無償で引き取ってくれる人を見つけることもできます。
6 廃止後10日以内:保健所、厚生局などの手続き
廃止後10日以内に、保健所や厚生局などの手続きをします。また、スタッフが社会保険に加入している場合には、社会保険の資格喪失の手続きなどが必要になりますし、その他、税務署や公費関係の各所への手続きが生じます。
7 賃貸契約の期限まで:内装の原状復帰を完了
賃貸契約の終了期限までに、内装の原状復帰を完了します。
賃貸契約書に「どのような状態で返却するか」が記載されているため、その規定に沿って原状復帰をして返却します。
以上です。
廃止までのスケジュールを組む際の要点として、
を踏まえてスケジュールを組むことをおすすめします。
上記のスケジュールはあくまでも目安でして、上記を参考にしつつ、各医院の個別事情や先生のこだわりなどを反映して、廃止のスケジュールを決定いただく形になります。
Ⅲ. 廃止にかかる費用
次に、廃止にかかる費用について解説します。
1 赤字期間の運転資金
患者さんへの周知を行うと、紹介状を書いて他院に紹介することが増えるため、患者数の減少に伴って売上が下がることが予想されます。
一方で、スタッフは最後まで雇用する必要があるので、廃止までの一定期間は赤字になる可能性があります。そのため、赤字期間の運転資金が必要になります。
2 退職金等
廃止に伴い、従業員に対して保証が必要となることがあります。退職金規定などを事前に確認しておく必要があります。
3 内装や機械の処分費用
内装をスケルトンの状態に戻す際の解体費用や、大型の医療機器の処分費用などが必要となります。また、機密文書や家具の処分にも費用がかかります。
4 行政手続き費用
廃止に際して、保健所・厚生局への手続きが生じます。また、医療法人の場合はそれ以外にも、都道府県への医療法人の解散手続きや登記手続きなどに費用がかかります。
Ⅳ. M&Aの検討
医療機関の廃止に際して、事前にM&Aを検討してみるのもお勧めです。例えば内装が古かったり、売上が低かったりしてもM&Aが決まるケースは多くあります。
M&Aを検討するメリットは、譲渡対価が入ること以外にも、
など、資金面以外にも多くのメリットが挙げられます。
特に、廃止が急な事情では無く、時間がある場合には、M&Aを検討する価値があります。医療機関の廃止をお考えの際には、M&Aも視野に入れて、まずはM&A仲介会社に相談してみてはいかがでしょうか。
Ⅴ. おわりに
ここまで、医療機関を廃止のスケジュールから費用、M&Aを検討するメリットについて解説しました。
廃止をする場合とM&Aをする場合のいずれにしても、早めにスケジュールを組むことが大切です。廃止に関しての詳しい解説は、下記コラムもご参照ください。
クリニックの廃業(廃院)とM&Aどちらを選ぶべきか|廃業コストやM&Aの注意点
医療機関を0円でM&Aをするメリット
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任