クリニックM&Aの基礎
医療機関M&Aの基礎③ネームクリアにおける留意点
Ⅰ.はじめに
前回、医療機関M&Aの基礎②において、ノンネームシートの作成について解説をしました。今回は、その次のネームクリアについて解説をします。
医療機関M&Aを検討し、仲介会社と話を進めたことがあれば、「ネームクリア」という言葉を耳にしたことがあるかと思います。M&Aでは、前コラムの通り、まずは具体的な案件がわからないノンネームシートにて買い手探しを行います。その後、買い手候補から問い合わせが入り、ネームクリア(クリニック名や概要書などの詳細情報の開示)を求められて、売り手が承諾をした相手にのみ情報を開示するという流れが一般的です。
本記事では、そのネームクリアの留意点について解説します。興味のある案件にネームクリアをするか迷われている買い手の先生や、まさにネームクリアを求められている売り手の先生のご参考になれば幸いです。
▼こちらの記事もご参照ください。
Ⅱ.ネームクリアとは
ネームクリアとは、買い手の基本情報を伝えた上で、売り手から案件の詳細情報を開示する承諾をとることを言います。
ネームクリアをする際には、一般的にはまず買い手から名乗ります。仲介者を通じて、買い手が個人であれば、現在の所属と名前を伝え、その後、承諾がとれた場合にのみ詳細情報が開示されます。
Ⅲ. ネームクリア時の留意点
(1)ネームクリアをするリスク
① 買い手のリスク
開業や継承を考えていることが売り手に伝わることになります。ただし、買い手の情報を売り手が外部に漏らした場合、機密保持契約違反となり、場合によっては損害賠償の対象になります。
また個人で現在勤務中の買い手の場合は、将来転職や開業を考えていることが漏れるのは困ることになりますが、例えば分院展開を積極的に行っている医療法人などの場合、継承をしての分院展開を考えているということが広まることをそこまでのリスクと考えていない法人もいらっしゃいます。
② 売り手のリスク
万が一、情報漏洩した際には従業員や患者さんなどに知られてしまうので、損害が大きいです。
リスクを最小限に抑える為にも、情報管理を徹底している仲介会社と取り組むことは当然のこととして、複数候補からのネームクリアの依頼があった際などは開示する優先順位を設けるなども必要です。
(2)ネームクリアを断られるケース
買い手がネームクリアの依頼をして名乗ったものの、売り手が開示を断るケースもあります。その例についてご紹介します。
① 買い手が知り合いだった場合
買い手はネームクリアを求める時点では、ノンネームシート上の情報しか知らない為、売り手が誰なのかを把握していません。しかし、その買い手が売り手と知り合いだった場合に売り手はお断りをすることがあります。
理由としては、M&Aを進めていく中で、概要書を開示した時にクリニックの売上や役員の年収、接待交際費の金額まで知られてしまう為です。売り手が知り合いにそこまで見られてしまうことを嫌がり開示を断ることがあります。
② 競合、連携先の場合
直接の知り合いではないですが、例えば買い手候補先が同じ駅で開業している競合の場合も断られてしまうことがあります。理由としては、概要書を開示した際に売り手の患者数や、どういう疾患の患者さんが多いかなどの経営情報が買い手に渡ってしまうことを恐れるからです。
③ 法人の場合
売り手の先生の中には、法人ではなく個人の先生に継承を希望するケースもあります。特に株式会社などの営利企業の場合は断られることがあります。
④ その他
その他、売り手先生の個人的なこだわりなどがあり、年齢(若すぎる場合もご高齢の場合も)や、ご専門科目など、上記以外の理由によって断られる場合もあります。
Ⅳ. 終わりに
ネームクリアは、必ず承諾しないといけないものではなく、売り手は断ることも出来ます。
ただ、買い手からすれば、継承をしたいという情報を売り手に伝えたとしても、機密保持契約を締結しているので情報が漏洩することを過剰に心配する必要は無く、仮に断られてしまったとしても、ネームクリアに費用が発生することは無いのが一般的です。
そういったことも踏まえて、現在興味のある案件があり、ネームクリアするか迷っているのであれば、まずはネームクリアをしてみてはいかがでしょうか。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任