クリニックM&Aの基礎
医療機関M&A 「いくらあればよいのか」継承にかかる費用を項目ごとに解説
Ⅰ.はじめに
新規の開業と比べて、医療機関M&Aでは費用を抑えられるという認識をお持ちの方は多いのではないでしょうか。その一方で、M&Aの場合は、譲渡価格以外にどのような費用がかかるのかイメージしにくいと思います。本記事では、実際にM&Aをする際に、譲渡価格以外にかかる具体的な費用について解説します。
Ⅱ.M&Aにかかる費用の項目ごとの説明
ここではM&Aにかかる費用について、項目ごとに解説します。
1 譲渡対価
まずは譲渡対価です。M&Aで事業や法人を得る代わりに買い手が売り手に支払います。事業譲渡の場合は、買い手から売り手である個人や医療法人に譲渡対価を支払い、その際の譲渡対価には消費税がかかります。
法人譲渡の場合は、売り手には医療法人から退職金で譲渡対価を支払うケースや、出資持分の譲渡で買い手から売り手に支払うケース、負債の引き取りを行い対価としては支払わないケースなどがあります。法人譲渡の場合は、消費税はかかりません。
このように、一口に譲渡対価と言いましても、事業譲渡と法人譲渡によって支払う方法が異なる場合があるので、注意が必要です。
譲渡対価の金額ですが、これは基本的には売り手が決定します。その参考としてM&Aの仲介会社が算定を行い、提案をすることが一般的です。
※買収価格の算定については、以下のコラムをご参照ください。
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2 仲介手数料
仲介手数料は、M&A仲介会社に支払う仲介手数料です。多くのM&A仲介会社は成功報酬制をとっていますが、会社によっては、成功報酬手数料に加えて中間金や着手金がかかる場合もあるので注意が必要です。仲介会社を選ぶ際には、仲介手数料の金額と手数料がかかるタイミングについても確認をすることがお勧めです。
3 内装工事
一般的にM&Aの目的の一つに、内装などの資産を継承することがあります。しかし、年数が経っている内装を継承した際に、床や壁のリノベーションを実施することもあります。この費用に関しては、どのような工事を行うかに寄って変わってきますが、一般的には坪単価5万円~10万円程度で簡単なリノベーションで済ますことが多いです。もしも長期の休診を伴う大がかりな工事をする場合は、患者さんが減ってしまうこともありますし、解体費や処分費がかかるため注意が必要です。
また、工事中に精密機械を保管する場所や、その保管費用(精密機械の場合は、保守会社の保守代など)が掛かることも留意しておきましょう。
関連記事:クリニックの内装にかかる費用について
4 医療機器
継承したクリニックの状態や、売り手院長先生の診療内容によっては、医療機器の新規購入費や、古い機械の処分費用が掛かる場合があります。同様に、売り手が紙カルテであり、継承をした際に、電子カルテの導入を希望される際には、その導入費用や紙カルテの処分費用がかかります。
5 敷金・礼金・仲介手数料
賃貸しているテナントに関する費用は、事業譲渡と法人譲渡で金額が異なります。
事業譲渡では、売り手が契約を解約して、買い手が新規で契約をするため、敷金・礼金・仲介手数料などが発生することが多いです。一方、法人譲渡では、譲渡される医療法人自体がオーナーと契約をしているため、敷金・礼金・仲介手数料は掛からないことが多いです。しかし、中には代表者の変更による礼金や契約事務手数料などがかかる場合もありますので事前に確認しましょう。
6 採用費
従業員の継承をする場合でも、欠員がでることもありますし、売り手時代とは異なる職種の募集をすることもあります。一般的に、求人媒体に支払う費用は10万円弱のことが多いです。
しかし、医師採用や看護師採用で紹介会社と使用する場合は、医師の年収25~30%が必要となります。そのため、医療法人で管理医師を雇う場合などには、400万円~500万円など、大きな金額が必要となるので注意しましょう。
関連記事:医療機関における職員の採用に関して
7 医師会入会費
事業譲渡だけでなく、法人譲渡の場合も医師会入会費がかかることが多いです。理事長や管理医師が変更となる場合は、改めて入会する必要があります。また、医師会入会費は100万~400万円と幅が広いため、事前に確認し費用として見込んでおきましょう。
8 行政手続き費用
M&Aにおいては、多くの行政手続きが発生します。
個人間の事業譲渡では、保健所・厚生局・税務署へ開設届・労務関連などが必要となります。
一方、法人譲渡や買い手が医療法人の場合の事業譲渡では、都道府県への定款変更・代表者変更の登記・役員変更・開設許可事項変更届・労務関連などが必要になるので高額になることが多いです。
関連記事:医療機関の行政手続きについて
9 看板、マーケティング費用
クリニックの名称が変わる場合は、看板を取り換える費用が発生します。また、ホームページに関しても、作り直し費用がかかります。このほかにも、パンフレットや名刺などの資材関係の作り直しも発生することが多いです。
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10 買収監査
買い手が売り手を監査するにあたり、弁護士や公認会計士、税理士、不動産鑑定士などの発注が必要です。発注する専門家や内容によって、費用の幅は広く、1診療所を運営する医療法人でも、100万~300万円程の監査費用がかかる場合があります。
11 研修時の人件費
新規でスタッフを雇用した場合や、電子カルテや新たな医療機器をを導入する場合は、研修における人件費がかかります。
12 各種システム費(名義変更費)
電子カルテや予約システム、WEB問診などを導入すると費用がかかります。また、もともとあるシステムも、名義変更の手数料などがかかる場合があります。その他にも契約をしている業者さんの契約変更(事業譲渡)や代表者の名義変更(法人譲渡)がかかってきます。
13 処分費
継承によって、使用しなくなった家具や家電、医療機器、古い紙カルテなどの機密文書の処分費がかかります。処分費においても、売り手と買い手のどちらが負担するのかを取り決めておく必要があります。
14 その他
上記以外にも、医薬品の購入費、継承開業に際する開業コンサル費、医師会入会費、ユニフォームの入れ替え費用などが発生することがあります。
Ⅲ.終わりに
ここまで、M&Aにかかる費用の項目ごとの解説をしました。
M&Aでは、譲渡対価と仲介手数料のみを支払えばよいとお考えになる方が多いです。しかし、本記事で紹介した中で該当する項目があれば、一つ一つ計算することをおすすめします。また、運転資金を銀行から借りる交渉も必要となるため、M&Aにかかる費用を把握しておくことが大切です。
これらの費用を合わせても、新規開業と比べて費用を抑えることができますので、今後の金額算定の参考にしていただければ幸いです。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
監修:金子 隆一(かねこ りゅういち)
(株)G.C FACTORY 代表取締役
経歴:
国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。
実績・経験:
・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験
・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任
・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任