M&A成約事例
M&A成約事例「一都三県、内科、事業譲渡案件」
Ⅰ.はじめに
このたび、弊社がご支援をさせていただいた一都三県の事業譲渡の案件がご成約となりました。そこで、担当者であるM&A仲介コンサルタント吉田に本件についてインタビューを行いました。
今回は、個人の医師から分院展開を考えている医療法人への譲渡です。スケジュール作成から譲渡実行までの詳しい流れ、2度の破談などのトラブルで苦労した点、全体を通して勉強になった点についてのインタビューです。これからM&Aを考えている多くの先生のご参考にしていただければ幸いです。
案件概要 | |
---|---|
エリア | 一都三県 |
診療科目 | 内科 |
売り手 | 医師(個人) |
買い手 | 医療法人 |
譲渡対価 | 5000万円~1億円 |
スキーム | 事業譲渡 |
譲渡契約書締結までの期間 | 約2ヶ月間 |
譲渡契約書締結から譲渡実行までの期間 | 約4ヶ月間 |
G.C FACTORY 役割 | 仲介業務(吉田) |
Ⅱ. M&A成約までのスケジュール
大項目 | 詳細 | 始期 | 終期 |
売り案件受注 | 売り手様からの相談 機密保持契約書の締結 | 2022年10月 | |
相手探し | 買い手様候補の探索 | 2022年10月 | 2024年10月 |
買い手様候補からの質問対応・内見 | 2022年10月 | 2024年10月 | |
最終契約譲渡契約 | 契約書作成 締結 | 2024年11月 | 2024年11月 |
クロージング | 譲渡実行 | 2024年2月 |
Ⅲ.各工程の詳細についてのインタビュー
1. スケジュール作成に関して
Q1 今回の譲渡スケジュールは、どのように決まりましたか?
吉田:
2022年10月に売り手から相談を受け、10月から募集を開始し、2度の破談を経て、2024年11月に最終譲渡契約書を締結しました。
買い手が医療法人でしたので、定款変更や医師の手配などを行う期間と、売り手側の限界点が2月29日ということで今回の譲渡スケジュールとなりました。
Q2 2回の破談があったとのことですが、破談になった理由は何だったのでしょうか。
吉田:
理由は、それぞれ「管理医師の都合によるため」「希望する診療ができない恐れがあるため」といった内容でした。破談になった2候補者とも、弊社の連携先とのFA形式(売り手と買い手にそれぞれのアドバイザーがついて交渉する形式)で話が進み、私は売り手側のアドバイザーという立ち位置でした。
タラレバの話をしても仕方がないですが、振り返って買い手側の理由や経緯を考えると、もしかしたら仲介であれば双方の情報や意図が正確に伝わり、話がうまくまとまった可能性もあったのではないかと考えています。FA形式の場合は一方の意向や温度感を直接確認することができないため、各アドバイザーが的確に情報を伝え、また、その意図をくまなければなりません。ここにFA形式の難しさがあり、また、コンサルタントの力量が問われるものなのだと痛感しました。
Q3 いろいろ困難があったのですね。では今回の買い手を売り手に紹介してから、最終譲渡契約の締結までどれくらいの期間がかかりましたか。
吉田:
約2カ月です。今回の買い手は二度目の紹介でして、一度目に紹介した際には、他にも2名の候補者がおり、条件面(管理医師候補の先生の有無)で他の候補に決まり、今回の買い手は一度見送りになってしまいました。
ですが、結果的に、そのときに選ばれた買い手候補は資金調達の面で調整がつかなかったため、繰り上げという形で今回の買い手に決まりました。加えて最終譲渡契約締結までは3週間程度でした。
Q4 とてもタイトなスケジュールだったのですね。今回のスケジュールを決めるにあたって、どのような点を考慮しましたか。
吉田:
そうですね。とにかく時間が限られていたので、いつまでに何をしなければいけないのかを明確にし、早期に着手実行することを意識しました。スケジュールは事前に細かく作成し、最終譲渡契約書の締結時に売り手と買い手に共有、その後、適宜進捗(しんちょく)を確認しながら、遅れが発生した場合には関係各所に調整を図ることで期限内に確実にクロージングが実行されるよう常に気を配りました。
2. 売り手の受注
Q5 次に、売り手はどういった経緯で受注になったのかを教えてください。
吉田:
はい。懇意にしている金融機関様からのご紹介でした。
Q6 今回、売り手が譲渡を考えた理由は何だったのでしょうか。
吉田:
売り手様のご家族が管理医師として経営されていましたが、体調を崩されてしまい経営を続けることが難しくなったため、譲渡をご選択されました。
3. 買い手の探索
Q7 買い手の探索はどのように行いましたか?
吉田:
当初、売り手はなるべく早めに譲渡を希望されていたため、早期に譲受が可能な勤務医の先生や非常勤などで勤務をされている先生を対象に、弊社のメールマガジン(配信先は約4,000件)の配信や連携先を中心に探索を行いました。
Q8 買い手からの問い合わせは、何件くらいありましたか?
吉田:
ネームクリアが入ったところで、20件程ありました。
Q9 20件ネームクリアが入った中で、トップ面談まで進んだのは何件くらいでしたか。
吉田:
破談になってしまった買い手候補も入れると4~5件です。
Q10 今回、買い手の探索で苦労したことはありますか?
吉田:
そうですね。今回の案件の診療内容をご専門としている先生の母数自体が少なかったため探索には苦労しましたが、弊社が強みとしている多数の連携先のおかげでマッチングができました。
4. トップ面談・内見
Q11 トップ面談・内見では、どういったところを確認されていましたか?
吉田:
クリニックで診療している疾患の範囲、患者特性、曜日や時間帯での来院患者数の変動など、現在の診療と承継後の自分の診療イメージをすり合わせるような質問が多かったです。その他、実際に主要な医療機器を稼働する場面もありました。
Q12 主に、疾患や時間帯について確認されていたのですね。では、トップ面談・内見は、どれくらいの時間がかかりましたか?
吉田:
診療後にトップ面談を開始して、大体1時間~1時間半程行いました。 売り手が親切な先生で丁寧に説明をしてくださったため、トップ面談としては比較的長めでしたが、買い手にとって有意義な時間を過ごせたのではないかと思います。
5. 意向表明書の提出に関して
Q13 今回、意向表明書の提出は行いましたか?
吉田:
はい。2~3件の意向表明が入りました。
Q14 意向表明書の提出はスムーズに進みましたか?
吉田:
そうですね。今回は複数の候補者から意向が入りましたので、それぞれの条件を整理して、売り手がどの候補者と進むか比較検討できるように工夫をしました。
6. 譲渡価格の決定
Q15 今回、譲渡価格はどのように決めましたか。
吉田:
弊社で簡易算定した結果をもとに、売り手の事情とすり合わせながら譲渡価格を設定しました。
7. 基本合意契約について
Q16 今回の基本合意契約は締結しましたか?
吉田:
今回は時間がタイトでしたので、基本合意は締結せずに、意向表明から最終譲渡契約に進みました。
8. 融資について
Q17 買い手の融資について教えてください。
吉田:
今回は買い手の医療法人の資金力が高かったため、特に借り入れはせずに進めることができました。
Q18 なるほど。今回は買い手の自己資金で賄えたということですね。
吉田:
そうですね。前の候補者が資金調達で辞退になったこともあり、事前に残高証明も提示していただき、売り手側も安心して進めることができました。
Q19 残高証明は、どのように証明されたのでしょうか。
吉田:
売り手様の意向で、残高証明書を提出する形ではなく、法人名義の複数口座の通帳の写しをいただき、証明をご提示する簡易的な方法で行いました。
9. 最終譲渡契約
Q20 最終譲渡契約はスムーズに進みましたか?
吉田:
はい。契約書を読み合わせ、双方の疑義を丁寧に説明していったこともありスムーズに進みました。
Q21 最終譲渡契約で苦労した点はありますか?
吉田:
今回の買い手の場合はスムーズに進みましたが、当初、破談を経験したことで、資産の整理や最終譲渡契約書の準備などが既に完了していたので当然ではあります。しかし、「契約書は何かトラブルが起きたときの最終的なよりどころになる」ということを改めて痛感しました。
10. 不動産交渉
Q22 不動産賃貸契約の切り替え交渉はスムーズに進みましたか?
吉田:
こちらは審査の点で難航しました。今回は新規契約ではなく名義変更で契約の巻き直しを行いました。今回の物件がマスターリースかつ大手の不動産会社所有だったため、審査や稟議(りんぎ)に想定以上の時間を要し、予定していた締結完了期限を大幅に過ぎての締結となりました。賃貸借契約の締結は買い手の開設許認可にも大きく関わってくる点でしたので、毎日不動産会社に連絡をして「期限内に何とかお願いします」と頼み込む日々を経て、期限ギリギリに締結を間に合わせていただくことができました。
Q23 なるほど。では、今回は譲渡実行まで期間が空いたと思いますが、その間もスムーズに進んだのでしょうか。
吉田:
そうですね、大きな問題はありませんでしたが、一点スタッフの引き継ぎに関しては、多少難航しました。
難航した原因は、譲渡実行までの期間中に、売り手と買い手の両先生方からスタッフに指示が行ってしまったことで指示経路が2つになり、スタッフが困惑し現場で不安が広がってしまったためです。その状況が分かってからはすぐに売り手と買い手双方と指示系統の修正を行い、その内容をスタッフに説明していただくことで状況は改善することができました。
11. 譲渡実行
Q24 譲渡実行を終えての感想を教えてください。
吉田:
困難な場面も多々ありましたが、無事にクロージング日を迎えることができ、最後には売り手と買い手が力強く握手を交わす場面もあり、その際にこの仕事をしていて本当によかったなと感じました。承継のご支援は終わりましたが、それぞれの先生方がそれぞれの場所で成功し、またどこかでご一緒にお仕事ができたらうれしいなと思っています。
今回は成約からクロージングまでの期間が4カ月とタイトでしたので、スケジュール通りに承継するには多くの関係者の協力がなくては進められない状況でした。今回の承継に向けてご協力いただいた皆様にはこの場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。
Ⅳ. 全体を通して勉強になった点、大変だった点について
Q25 では最後に、今回特に勉強になったことを教えてください。
吉田:
いつ、何が起きるか分からないのがM&Aだということを再認識した案件でした。どんなに入念に準備して進めていても不測の事態は起こり得ます。だからこそ、「いつ、何が起きてもこの人に任せれば大丈夫!」と依頼者から思ってもらえるような信頼関係を日々築くことが承継を進める上ではとても重要なことだと実感しました。また、そのように思ってもらえるよう今後も努力を重ねていかなければならないと感じました。
Ⅴ. 終わりに
今回は、個人のクリニックから医療法人への譲渡案件の成約インタビューを行いました。弊社では、マッチングから後の開業支援まで一気通貫で支援する体制が整っております。今後も、事業を譲渡したい方や譲受して開業されたい方、新規で開業されたい方、皆様の挑戦に不可欠な存在になるべく、誠実に想いに寄り添いながらご支援をさせていただきます。
著者:株式会社G.C FACTORY 広報部
日々、医療機関経営の経営に関するコラムを執筆したり、院長先生へのインタビューを実施。
大手医療法人の理事長秘書、看護師、医学生、大手メディアのライターなど、
様々な背景を持つメンバーで構成しています。
担当コンサルタント
株式会社G.C FACTORY コンサルティング事業部 コンサルタント
吉田さつき(よしだ さつき)
経歴:大手医療法人の理事長秘書として、外国人採用のルート開発や経営企画の経験を経て現在に至る。現在はヘルスケア領域での経験を生かし、M&A、コンサルティング業務、接遇教育等に従事。